- 「“ケアハラ”という言葉をよく聞くようになったけど、どういう意味?」
- 「どのような言動がケアハラになるのか、具体例が知りたい。」
- 「職場でケアハラスメントの防止をしたい!」
このような疑問やお悩みをお持ちの方のために、今回はケアハラスメント(ケアハラ)について解説します。
ケアハラの定義や、関連する制度、具体例を紹介したあと、後半では職場のケアハラ防止策を簡単に紹介します。
ケアハラスメントについて詳しく知りたい方、ケアハラ防止に取り組みたい方はぜひご覧ください。
目次
ケアハラスメント(ケアハラ)とは
ケアハラスメント(ケアハラ)とは、「働きながら介護をしている従業員に対し、嫌がらせをしたり、必要な制度を利用させなかったりするなどの不利益な行為全般」を指します。
たとえば、介護休業の取得を申請しても認めない、介護を理由に言及をするなどの不利益な行為が該当します。
しかし、介護をしている従業員の状況を考慮しての業務分担や安全配慮等の観点から、業務上の必要性に基づくものはケアハラスメントには該当しません。
育児・介護休業法について
次に、ケアハラスメントに大きくかかわりのある「育児・介護休業法」の介護部分の概要と、介護休業制度についてご説明します。
育児・介護休業法とは
育児・介護休業法とは、企業で働く従業員が育児・介護の時間が必要となったとき、仕事とそれらを両立できるようにするために定められた法律です。
育児・介護休業法第11条、第12条では、以下のように定められています。
<育児・介護休業法第11条>
労働者は、その事業主に申し出ることにより、介護休業をすることができる。ただし、期間を定めて雇用される者にあっては、次の各号のいずれにも該当するものに限り、当該申出をすることができる。
<育児・介護休業法第12条>
事業主は、労働者からの介護休業申出があったときは、当該介護休業申出を拒むことができない。
つまり、従業員は事業主に申請すれば、法律の定めるルール内で介護休業を取得でき、事業主はそれを拒めません。(雇用条件により一部制限があります)
また、この法律は「労働者」を対象としているので、男性と女性どちらでも申請、取得が可能です
仕事と介護の両立支援制度には、以下の6つがあります。
- 介護休業制度
- 介護休暇制度
- 短時間勤務等の措置
- 所定外労働の制限
- 時間外労働の制限
- 深夜業の制限
今回は「介護休業制度」について、より詳しく解説します。
介護休業制度とは
介護休業制度とは、要介護状態(※)の対象家族を介護するための制度です。この制度を利用できるのは、要介護状態の家族を介護する男女の労働者となります。
パートやアルバイトなどの雇用期間の定めがある労働者も、一定の要件を満たせば利用できます(企業によって異なる場合がありますので、自社の就業規則等をご確認ください)。
(※)要介護状態:負傷、疾病または身体上もしくは精神上の障害により、2週間以上の期間にわたり常時介護を必要とする状態
介護休業は対象家族1人につき3回まで、通算93日まで休業できます。休業開始予定日の2週間前までに、書面等で事業主に申し出ることで手続きが完了します。
ケアハラが起きる原因
ケアハラが起きる原因は大きく3つ挙げられます。
まず「ケアハラスメント」という言葉が世の中にあまり浸透していない点です。
セクハラ、マタハラなどと比較して、ケアハラは認知度が低い傾向にあります。
言葉が浸透していないので、内容の理解もまだまだ進んでいません。理解がないからこそ、問題が横行しているのです。
次に、介護自体がいつまで続くのかわからず、業務の見通しが立てづらい点です。
介護は何の前触れもなく始まり、いつまで続くかわかりません。
その間、急に仕事を続けることが難しくなり、他の人に自分の仕事をしてもらわなければならない場合もあります。
このような時に周囲の人たちの理解がなければ、「なぜ自分がこの仕事をやらなければならないのか」「いつまでこの状態が続くのか」などと不満を抱えてしまいます。
最後に性別的な固定観念がいまだ残っている点です。
男女共に協力して働く社会になってきていますが、なかにはまだ「介護は女性がするものだ」「介護など奥さんに任せて自分は働けばいいだろう」等の性別的な固定観念が残っているのも現状です。
また、これは介護だけでなく、育児にも同様にあります。
育児に参加しようとする父親に、嫌がらせをする行為はパタニティハラスメントに該当します。
ケアハラの具体例
ここまで、ケアハラの定義や介護のための制度、そしてケアハラが起こる原因について説明してきました。
次にケアハラの具体例を紹介します。
不利益取扱いの例
厚生労働省では、以下の行為を介護休業等の申出・取得等を理由とする不利益取扱いの例として挙げています。
- 解雇すること。
- 期間を定めて雇用される者について、契約の更新をしないこと。
- あらかじめ契約の更新回数の上限が明示されている場合に、当該回数を引き下げること。
- 退職又は正社員をパートタイム労働者等の非正規雇用社員とするような労働契約内容の変更の強要を行うこと。
- 就業環境を害すること。
- 自宅待機を命ずること。
- 労働者が希望する期間を超えて、その意に反して所定外労働の制限、時間外労働の制限、深夜業の制限又は所定労働時間の短縮措置等を適用すること。
- 降格させること。
- 減給をし、又は賞与等において不利益な算定を行うこと。
- 昇進・昇格の人事考課において不利益な評価を行うこと。
- 不利益な配置の変更を行うこと。
- 派遣労働者として就業する者について、派遣先が当該派遣労働者に係る労働者派遣の役務の提供を拒むこと。
以上のような不利益な取扱いをほのめかす行為は、ケアハラに該当します。
【具体例】
- 介護休業を申請した従業員の役職を降格させる
- 介護休業を申請した従業員に対し、不利益な配置転換を行う など
「制度の利用を希望すること・利用すること」を妨害する行為
介護休業等を利用したいと言っている従業員や実際に利用することを妨害する行為も、ケアハラに該当します。
【具体例】
- 介護休業等を利用しようとする部下に、上司として制度利用を認めない
- 介護休業を取得しようとしている従業員に対し、大量の業務を押しつけ、制度利用を阻害する など
制度を利用したことを理由に、嫌がらせをする行為
介護休業等を実際に利用したことを理由に、嫌がらせをする行為もケアハラに該当します。
【具体例】
- 介護休業を取得した同僚に対し、「お前は定時で帰れていいよな。お前のせいで俺の仕事は増えているよ」などと嫌味を言う
- 介護休業を取得した従業員の仕事を極端に減らす など
ケアハラを放置するリスク
ここまで、ケアハラの具体例について紹介しました。
ここからはケアハラを放置するリスクについて説明します。
生産性の低下
ケアハラによって、チーム全体の雰囲気が悪くなり、悪影響をもたらす場合があります。チームの雰囲気は仕事の生産性に直結します。
また、もしケアハラを受けた従業員がそれを理由に退職してしまったら、さらに生産性が下がるでしょう。
法的責任を問われるリスク
育児・介護休業法第25条により、企業にはケアハラに対する防止措置を講じる義務があります。防止措置を講じず、ケアハラ発生の現状を放置していると、厚生労働省などから勧告を受ける場合もあります。
また勧告を受けても措置を講じなかったり、報告の求めに対応しなかったり、虚偽の報告を行ったりした場合には、制裁として過料(※)が科されたり、企業名が公表されたりする可能性もあります。
(※)過料:行政上、軽い禁令をおかしたものに支払わせる金銭。
悪評の流布による社会的信用の損失
ケアハラ対策を行わなかった場合、先述したように厚生労働省からの勧告や企業名の公表が行われる場合があります。
また、内容によっては被害者から訴えられる可能性もあります。
このような事例がメディア等で取り上げられた場合、「ハラスメントを放置する企業」というレッテルが付き、社会的信用の損失につながる可能性があるのです。
ケアハラの防止策
ケアハラを放置すると、企業にも大きなリスクがあるとおわかりいただけたと思います。
最後にケアハラの防止策について紹介します。
事業主から従業員へメッセージの発信とルールの整備
事業主は、ケアハラに関する方針の明確化と、従業員に対するその方針の周知を行うため、メッセージを配信しなければなりませ ん。
周知・啓発をするにあたっては、ハラスメント発生の原因やその背景について、従業員の理解を深めることが重要です。
また、ケアハラについての社内ルールを整備し、メッセージとあわせて周知するのも効果的です。
下記は事業主の方針等を明確化と、従業員への周知・啓発の具体例です。
- 就業規則やその他の服務規律等を定めた文書の中で、ケアハラスメントについての方針を規定し、周知・啓発する。
- 社内報・パンフレット・社内共有サイトなどに、ケアハラスメントの内容や原因・背景並びに禁止する旨の方針を記載し、周知・啓発する。
社内外相談窓口の設置
事業主は従業員からの相談に対し、その内容や状況に応じ適切かつ柔軟に対応するために、必要な体制を整備しなければなりません。ケアハラに対する相談窓口の設置や担当者を立てるなどの対策を行いましょう。
社内相談窓口に関してはケアハラのみでなく、他のさまざまなハラスメントにも対応できるよう一元化すると良いでしょう。
その他のハラスメントについて詳しく知りたい方は、以下参考ページをご覧ください。
ケアハラや介護休業制度等の内容を研修で周知する
ケアハラの内容等を事業主からパンフレット等で周知すると先述しましたが、それだけでは不十分な場合があります。
定期的に研修を行い、ケアハラや介護休業法、介護休業制度等について、従業員の理解度を高めていきましょう。
ケアハラスメントを知り、理解することが大切です!
介護休業等は法律で認められている制度であり、性別に関係なく取得できます。
その権利を阻害するケアハラスメントは、あってはならないものです。
まずは「ケアハラスメント」を知り、企業全体で理解することが大切です。内容を理解したうえで、防止・対応策に取り組んでいきましょう。
また、ハラスメント対策は健康経営を実現するうえでも役立ちます。
健康経営について詳しく知りたい方は、以下参考ページをご覧ください。
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