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『4訂版 精神科産業医が明かす 職場のメンタルヘルスの正しい知識』健康経営書籍紹介

『4訂版 精神科産業医が明かす 職場のメンタルヘルスの正しい知識』健康経営書籍レビュー
健康経営に関する本・書籍をご紹介。 今回は『4訂版 精神科産業医が明かす 職場のメンタルヘルスの正しい知識』(著:吉野聡、梅田忠敬、松崎一葉)の読みどころやポイントを紹介します。
とても文章が読みやすいうえに内容が充実しており、職場のメンタルヘルス対策を学びたい人にとって、間違いなくトップクラスの良書です。

職場のメンタルヘルスの基礎知識から、セルフケア・ラインケアの方法、ストレスチェックの職場改善への活用法や、療養中の従業員が職場復帰するまでの手引きなど、幅広いジャンルを取り扱っていますが、決して内容が薄くなることはなく、すべてのパートにおいて読みごたえがあります。

【特に重要なポイント・内容】
  • 心の健康問題で1ヶ月以上病欠した労働者の平均休業日数は約5ヶ月。

  • さらに、実際の休業期間が5ヶ月であっても、療養前のパフォーマンス低下や職場復帰後のリハビリ期を考えると、実質的には8ヶ月ぶんの労働損失が発生する。

  • メンタルヘルス休職者の比率が上昇した企業とそうでない企業を比較した場合、メンタルヘルス休職者の比率が上昇した企業のほうが、リーマンショック後に売上高と利益率が大きく悪化した。 
    ※出典:企業における従業員のメンタルヘルスの状況と企業業績 -企業パネルデータを用いた検証-黒田 祥子(早稲田大学)、山本 勲(慶應義塾大学)

  • メンタルヘルスケアを推進するためにもっとも重要なのは、事業者(経営者)がメンタルヘルスケアの推進を社内・社外に表明すること。

  • 心の健康問題の原因は、労働時間だけではない。裁量権が低い職場だと、残業が少なくてもより高いストレスを従業員は感じる。

  • 従業員の年齢によって、仕事の量にストレスを感じるのか、それとも仕事の質にストレスを感じるのかが変化する。たとえば20代の従業員は40代の従業員と比べて、仕事の量よりも質に負担を感じやすい。仕事のやり方がわからなかったり、役割分担が不明確だったりすると、仕事の質が低く負担感が大きくなる。そのため、若手の従業員の場合は、労働時間だけに注意するのではなく、仕事のやり方を丁寧に教えたり役割分担を明確にしたりして質的な負担感を減らすことが効果的。

  • 仕事の裁量権や達成感が大きい場合は、たとえ仕事の量が多く、仕事が難しくてもストレスが少なくなることがある。筑波研究学園都市の研究系と事務系の職員のストレスを比較した調査では、研究系の職員のほうが仕事の量が多く、仕事の難易度が高いと感じていたにもかかわらず、事務系の職員よりもストレスが少なく心身が健康に保たれていた。つまり、従業員に裁量権と達成感を適切に与えることができれば、仕事の量を減らさずにストレスを緩和できる可能性がある。

  • メンタルヘルスに不調を抱えていそうな従業員に「あなたはうつだから精神科に行ったほうがいい」などと強引に勧めると抵抗感を引き起こしてしまう。それに対して、体の不調については素直に助言を受け入れやすいので、「最近眠れないのであれば、一度病院で診てもらったほうがいいかもね」など一般の健康問題に対処するように受診を勧めるとよい。精神科や心療内科でなくても、かかりつけの内科医でも構わないので、まずは医療機関につなげるべき。

  • 主治医から1ヶ月療養が必要な旨の診断書が提出されたとしても、もっと長い期間の療養が必要な可能性があることを留意しておく。

  • メンタルヘルス不調で長期療養に入る従業員には「2週間に1回程度、病院で受診した日などに会社にお電話をいただけませんか?」などと取り決めをしておくと、双方にとって不安が少なくなる。

  • メンタルヘルス不調で休職していた従業員を職場復帰させる際、「キリがいいから」という理由で4月1日に復帰させる会社が多いが、あまり効果的ではない。年度替わりは新入社員や人事異動の影響で職場が安定していないことが多く、復帰者へのケアを十分におこなえないリスクが高まるためである。それよりは職場が安定してくるゴールデンウィーク明けなどのほうが円滑に職場復帰しやすい。

  • 自宅療養中の従業員が職場復帰を希望する場合、産業医が判断するのは問題ないが、「復職判定委員会」のような合議体を社内で形成し、そちらで最終的な判断を下すのがよい。復職判定委員会は事業者や人事労務担当者、受け入れ職場の管理監督者、産業医、労働組合または労働者の過半数代表者などで組織する。


後半は現代型うつ病・パーソナリティ障害・自閉症スペクトラム障害・アルコール依存症・統合失調症・双極性感情障害(躁うつ病)・適応障害(テレワークうつ)などのメンタルヘルス不調への適切な対応方法を、シチュエーションを想像しやすい事例とともに紹介してくれます。

自宅療養中の従業員の生活記録表や、職場復帰プラン、会社から主治医に提出するための職場復帰支援に関する情報提供依頼書などの書類のフォーマットが掲載されているところも、実務に携わる人事労務担当者にとってはうれしいポイントでしょう。

会社のメンタルヘルス対策を始めたい人事労務担当者にとって、最適の本だと言えます。
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