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特定非営利活動法人 愛えん様|健康経営事例

人手不足で悩んでいる業界こそ、先手を打って健康経営をすぐに始めるべきです

特定非営利活動法人 愛えん
・岡 孝二 理事長

#佐賀県三養基郡
#医療・福祉・保育事業
#https://aien.or.jp/
特定非営利活動法人(NPO)愛えんは、佐賀県の東部で放課後児童クラブや、障がい児相談支援や児童発達支援・放課後等デイサービスなどの事業をおこなっています。

もともと1993年から岡孝二理事長のお母様がボランティア活動で学童保育・託児所を営んでいたところ、行政などから「本格的に福祉活動をしませんか」との強い勧めがあり1998年に起業して2009年に法人化されました。

法人の理念である「ために生きる」は、「世界の子どもたちのために」「地域社会のために」「環境のために」、見返りを求めずに活動していくという奉仕の精神を表しており、メインの福祉事業だけでなく地域の防災や環境整備、SDGsなどの活動も積極的に進めています。

愛えんは健康経営優良法人2022を取得し、NPOとしては全国で唯一ブライト500にも認定されました(2022年時点)。

今回は岡理事長に、NPOが健康経営を実現するポイントについてお伺いしました。

「人手不足が深刻化する福祉・保育業界のなかで人材を確保するには、先手を打って動くべき」という思いから健康経営を始めた

Q.健康経営という言葉を初めて知ったきっかけを教えてください

私が保育系の団体の代表理事を務めておりまして、5年前に保険会社の担当者から職員に対する保険サービスの紹介を受けていたなかで、たまたま健康経営の言葉を耳にしたのがきっかけになります。

「今後、保育団体としても職員が活き活きと働けるように、健康経営を目指していく必要がある」といった内容でした。

Q.健康経営を知ってから、自団体で実際に取り組むまでにはギャップがあったかと思うのですが、取り組みを始めたときのモチベーションを教えてください

最初は健康経営と聞いても「職員の健康管理の話かな」というぐらいで、明確なイメージは持っていませんでした。

ですが、福祉・保育関係は人材確保が難しい業界であるため、少しでもイメージをよくしようと考えて健康経営に取り組むことに決めました。

当時は健康経営を知っている企業がかなり少なかったので、他の企業や団体より先に取り組みを始めようと考えました。

保育業界全体が人手不足で悩んでいるなかでは、後手後手で取り組んでも自団体の状況も改善しないと思いましたので、先手を打って動かなければという思いがありました。

健康経営の推進で人手不足の解消や、今在籍している職員さんに長く働いてもらえる環境を作りたいと考えました。

ボランティア活動で職員間の絆を深める ボランティア手当の支給でパートの職員も参加しやすい状態に

Q.実際に健康経営の取り組みを始めたときの課題や疑問点について教えてください

最初の課題は、なにが課題なのかもよくわかりませんでした(笑)
やはり「健康経営」という言葉だけを知っているのと、実際に取り組むのではギャップがあります。

一つ挙げると、職員間のコミュニケーションの問題です。

私たちの団体の職員の9割は女性で、年齢層にばらつきがあり下は20代から上は70代まで、親子どころかおばあちゃんと孫くらい年齢層が異なる方々がいっしょに働いている職場です。

そのため各世代の職員が気兼ねなくコミュニケーションを取ることが、なかなか難しい状況です。

そこでボランティア活動を通して、職員間の連帯を強めたいと考えました。

地域の子どもたちなどへの声掛けのボランティアに実際に取り組んでいるのは正職員がほとんどですが、パートの職員にも徐々に参加してもらえるように工夫していきました。


健康経営というと正職員にばかり目がいきがちですが、本当は臨時職員やパートも含めて健康に働けるようにすべきです。

ボランティア活動に参加した職員には特別な手当を支給することで、職員の参加を促しています。

日本だと「ボランティア活動は無償でやるもの」とのイメージが強いですが、海外では有償でのボランティアはごく普通ですし、職員の貴重な時間を割いてもらうので、ボランティア手当の支給は当然だと考えています。

その結果、ボランティア活動への参加率も上がりましたし、職員のやる気や意識も高められました。

ボランティアが子どもたちとの交流だけでなく、職員間や地域とも絆を深めることに

私たちの放課後児童クラブの近くに小学校があるので、正門で登校する子どもたちへあいさつするボランティアをしています。

放課後児童クラブの子どもたちもそこの小学校に通っているので、職員を見かけた子どもたちから「先生、なんで今日は小学校にいるの?」と声をかけられたりもしています(笑)

そのような活動を継続することで、子どもたちとのコミュニケーションを増やすとともに、職員間のコミュニケーションも促進されています。

さらに、周囲のゴミ拾いもいっしょにしているため、地域の方とお話しして交流する機会にもなっています。

健康診断を充実化 乳がん検診などの追加を希望する場合は、費用を団体が全額負担

Q.他に健康経営で取り組んでいる施策を教えてください

健康診断の受診体制の改善に取り組みました。
昔は職員任せで各自バラバラの時期にそれぞれが選択した病院で健康診断を実施していましたが、健康経営を知ってからはその体制では問題があることに気付きました。

病院ごとに検診項目が違っていますので、団体側で必要だと考える検診項目が欠けていたり、職員全体の健康状態のデータがわかりづらくなったりしていました。

そこで、同じ病院で同じ項目の健康診断を受けてもらうように統一しました。

正職員はもちろん、臨時職員のぶんもこちらで費用を負担して、正職員と同じ項目の健康診断を受けてもらっています。

もともと受診率はほぼ100%ですが、受診する病院を同じにしたことで、健康診断の質が向上しましたし、職員全体の健康状態のデータも取れるようになりました。

Q.職員様の9割が女性ということなので、女性が働きやすい環境にするための施策について教えてください

乳がんなどの女性特有のがん検診を職員が追加で受けたい場合は、その費用を全額負担していますね。

人間ドックや脳ドックのような高額な検診については、費用負担は難しいこともありますが、健康診断では総じて通常よりも充実した内容で受けてもらっています。

運動不足解消のためスポーツサークルを立ち上げ 体育館の利用料や用具の購入費は団体が負担

Q.他に健康経営で力を入れている取り組みはありますか?

今はコロナ禍であまりできていませんが、職員の運動不足を解消するためにスポーツサークルを立ち上げました。

近所の体育館を借りて、バドミントンなどのスポーツをするように職員に促しています。体育館の利用料や、バドミントンに使うラケットやシャトルの購入費用などは団体から補助を出しているため、職員は無償で参加できます。

職員からのアイディアも取り入れて、組織全体が同じ方向を向くようにしないと、健康経営は成り立たない

Q.実際に取り組んでみて、健康経営という言葉についてイメージの変化はありましたか?

健康経営は「経営」という言葉が含まれていることもあり、当初は経営陣や役員だけの活動というイメージでした。

しかし、実際は職員同士や組織全体が同じ方向を向かないと健康経営は成り立たないと実感しています。「経営」とは言いつつも、先ほどのコミュニケーションの促進やスポーツサークルなどの職員が参加したいと思うような活動にしないと、健康経営を成功させるのは不可能だと思います。

Q.職員の方のアイディアで進めている健康経営の取り組みはありますか?

実は先ほどお話したスポーツサークル立ち上げも、職員発のアイディアです。

もともとは少人数の職員で行う予定ですが健康経営にあてはまると思い、一部の職員だけでなく全体に向けてスポーツサークル立ち上げを発信してもらいました。


健康経営ではトップダウンで活動を指示するだけでなく、職員からのアイディアも活かしてボトムアップでも進めていくようにしています。

健康経営優良法人2022で、NPOで唯一のブライト500を取得

Q.健康経営を始めてから、職員のみなさまの意識や行動に変化などはありましたか?

健康経営優良法人やブライト500の認定を受けてからは、職員の雰囲気が変わりました。

私たちのような特定非営利活動法人(NPO)で健康経営優良法人を取得している団体は十数箇所あるのですが、その中でも2022年にブライト500を取得していたのは私たちだけでした。

国からも私たちの活動が評価されて認められたというのは、職員さんにとっても大きな自信になったと思います。

※健康経営優良法人…健康経営に取り組む優良な大企業・中小企業・その他法人を認定・顕彰する公的制度
参考ページ:健康経営優良法人とは? メリット・認定基準・申請方法をわかりやすく解説

※ブライト500…健康経営優良法人の中小規模法人部門の認定を受けたなかでも、特に優れたトップ500の法人に贈られる顕彰

これからの健康経営自体の認知度アップや、行政からのバックアップに期待したい

まだまだ一般の求職者にとって健康経営優良法人やブライト500の認知度はそこまで高くないと思います。

ですが完全にブラックな会社や組織で取れる認定ではありませんので、今後さらに健康経営優良法人やブライト500が広く知られることで、求職者のみなさんの会社選びの指標になってくれるとありがたいです。

また、私たちの団体がある佐賀県では、健康経営優良法人の取得を促進する制度がまだそこまで多くないですが、他の地域では「健康経営優良法人を取得している企業には、補助金が優先的に支給される」「健康経営優良法人を取得していると公共調達時に加点される」などの優遇制度もあるようです。

ハローワークで健康経営優良法人を取得している企業・団体を積極的に紹介してもらうなど、行政のほうからの後押しがあると、健康経営に取り組む企業・団体がさらに増えるんじゃないでしょうか。

健康経営に取り組む企業や団体には、「従業員を大事にしよう」という思いが根底にあるはずなので、もっと一般の方にも知られてほしいですし、行政からもさらにバックアップがあると嬉しいです。

業務上の事故を防止するうえでも、健康経営は効果的

Q.健康経営優良法人やブライト500の認定後、求職者や取引先などの外部の方からの見方が変わったことなどはありましたか?

採用で応募してくる方についてはまだまだ健康経営の認知度が低いことからあまり触れられないですが、面接の際には「こういった取り組みをしているんですよ」と健康経営を紹介しています。

なお、私たちの団体ではICT関係のサービスの提供をしているIT企業や備品のレンタルをしている会社と取引がありますが、大手企業ほどやはり情報が早いので「健康経営の認定を取られたんですね!」などとお声がけいただけることが増えました。

ある取引先の大企業の担当者さんが通常は数年で新人に変更になるところ、私たちが健康経営優良法人やブライト500を取ったのが影響して、今までの担当者さんにそのまま続投してもらえたこともありました。

私たちの団体は決して取引額としては大きくないと思いますが、健康経営優良法人取得後は尊重されているのを感じました。


また、保険会社の担当者からも「NPOなどで健康経営優良法人を取得している組織は、全国的にも少ないので凄いですね!」との言葉をいただきました。

さらに、保険代理店の方から聞いたんですが、健康経営に取り組んでいる会社や団体は、事故が少ないらしいです。

私たちのような子どもたちを預かる事業においては、事故は決して起こしてはならないので、今後は事故を防ぐ意味でも健康経営は重要になってくるのではないでしょうか。

健康経営を始めると、今まで見えなかった自分たちの課題が見えてくる

Q.他に健康経営を始めて良かった点を教えてください

自団体の健康に対する課題が明確になったことですね。健康経営を知るまえは、健康についてここまで細かい現状認識をしていませんでした。

特にブライト500ともなると、細かい認定要件が多数存在しますので、自団体の現状をすみずみまで把握することになります。

健康経営にトライすることで、今まで見えていなかった組織の課題を見つけて、改善できるようになりました。

これから健康経営を始める企業や団体へのアドバイスを教えてください

まずは各都道府県の健康宣言事業を始めてみることです。

※健康宣言事業…各保険者(各地の協会けんぽや健康保険組合)が実施している制度。健康宣言をおこなう企業の健康づくりを支援して、保険加入者(従業員)の健康を増進させることを目的としている。


そして事務員さんなどに丸投げするのではなく、経営陣がみずから健康経営を推進していくことが重要だと思います。

また、協会けんぽなどの外部からアドバイスをもらいながら進めていったほうがいいです。

あと「自分たちの会社は大企業じゃないから、健康経営なんて関係ないよ」と考えるのはやめたほうがいいと思います。

これからの日本社会で自分たちの会社や組織を存続させていきたいのであれば、少しでも早く健康経営に取り組んだほうが、後々メリットが大きくなるはずです。

インタビュー後記

特定非営利活動法人(NPO)愛えんのお話のなかでは、ボランティア活動を推進することで職員間・お子様・地域との絆を深めていったとの箇所が特に印象に残りました。

また、「見返りを求めずに奉仕の精神で活動する」という愛えんの理念は、「今後SDGsや環境保護が重視されるなかで、ますます時代にマッチしたものになっていくのでは」と感じました。

私たちが短期的な利益や見返りを求めた活動のみをしていては、さまざまな環境問題や社会問題は悪化していくばかりだからです。

愛えんのホームページでは健康経営などの活動に加えて、バルーンフェスタなどのイベントに地域のお子様が参加されている様子なども紹介されています。

健康経営や地域社会の活性化にご興味のある方は、ぜひご覧ください。

特定非営利活動法人 愛えん
特定非営利活動法人 愛えん

所在地:
〒849-0123 佐賀県三養基郡上峰町大字坊所954-3

事業内容:医療・福祉・保育事業(学童保育・障がい児相談支援・放課後等デイサービスなど)
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