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『幸せな職場の経営学』健康経営書籍レビュー

『幸せな職場の経営学』健康経営書籍レビュー
健康経営に関する本・書籍をご紹介。 今回は『幸せな職場の経営学』(著:前野隆司)の読みどころやポイントを紹介します。
本書は、「幸福」の研究をしている著者が、どのような職場が幸せなのかを詳しく解説した本です。
「幸せな職場」とはどのような職場か、「ウェルビーイング」が経営に必要な理由、実際に取り組んでいる会社の事例などが紹介されています。
【特に重要なポイント・内容】
  • 「幸福学」とは幸せに生きるための考え方や行動を「科学的」に検証し、実践に活かすための学問である。
 
  • 毎年ホワイト企業大賞にノミネートされる企業の多くが、業績面でも非常に好調である。つまり、社員や会社の幸福度と業績は比例している。
 
  • 先の見えない激変期である現代においては、組織メンバーそれぞれが多様な工夫や試行錯誤を惜しまないことが有効である。
  • 平成30(2018)年度に内閣府が実施した「国民生活に関する世論調査」によれば、日本人の7割以上が日頃の生活に充実感を得ている。その中でも家族団らんのときや、休養しているとき、趣味やスポーツに熱中しているとき、友人や知人と過ごすときに充実を感じると回答している。
 
  • アメリカの経済学者ロバート・フランクは、他者との比較優位によって価値が生まれ満足を得られる財を「地位財」、他者との比較ではなくそれ自体に価値があり喜びにつながる財を「非地位財」と分類した。地位財は主に、仕事や所得などの社会的地位、家や車といった物的財を指す。非地位財は、愛情や自由、健康などが挙げられる。
 
  • 2005年に、イギリス、ニューカッスル大学の心理学者、ダニエル・ネトルが著書『目からウロコの幸福学』で、これら2つの財について「幸福の持続性が異なる」と記した。
つまり、地位財による幸せは長続きしないのに対し、非地位財による幸せは長続きすると記したのである。
たとえば、給料が上がったり、昇格したり、欲しかったモノが手に入ったときに得られる幸福感はその時限りのもので持続しない。反対に、家族や友人と共に過ごしたり、趣味に没頭したりと、自然の中でゆったりとした時間を過ごすことで人は長期的な幸福感を得られる。
  • 「幸せ」を英訳すると一般的には「happiness」という単語が使われるが、幸せには短期的なものと長期的なものがある。
それを踏まえ、著者が研究する幸福学は「well-being study」と訳されている。
 
  • 著者らは、幸せの心的特性の全体像を明らかにするため、アンケートを作成し日本人1500人に対して、アンケートを行った。その結果を分析したところ、人が幸せになるために必要な以下「4つの因子」が導き出された。

1.「やってみよう!」因子(自己実現と成長の因子):自分の成長を実感することで、幸せを感じられる因子。
(例)「私は有能である(コンピテンス)」「今の自分は『本当になりたかった自分』である(自己実現)」 など
 
2.「ありがとう!」因子(つながりと感謝の因子):他者とのつながりによって幸せを感じられる因子。
(例)「人の喜ぶ顔が見たい(人を喜ばせる)」「私を大切に思ってくれる人たちがいる(愛情)」など
 
3.「なんとかなる!」因子(前向きと楽観の因子):常にポジティブで楽観的であり、自己肯定感が高い因子。
(例)「私は物ごとが思いどおりにいくと思う(楽観性)」「自分は人生で多くのことを達成してきた(自己受容)」など
 
4.「ありのままに!因子」(独立と自分らしさの因子):他の誰でもなく、自分らしく過ごせているかを表す因子。
(例)「私は自分のすることと他者がすることをあまり比較しない(社会的比較のなさ)」「私に何ができて何ができないかは外部の制約のせいではない(制約の知覚のなさ)」など
 
この4因子がバランスよく備わっていることが、より幸せな状態だと言える。
  • 平成29(2017)年「労働安全調査(実態調査)」(厚生労働省)によると、「現在の仕事や職業生活に関することで、強い不安、悩み、ストレスと感じる事柄がある労働者」の割合は58.3%。職業人口の半数以上が何らかのストレスを感じていると分かった。
また2016年のマンパワーグループの調査によると、職場におけるストレス原因の1位は「上司・人間関係」だった。
 
  • 「時間あたりの労働生産性と労働時間」について、2017年のOECD(経済協力開発機構)のデータに基づく日本の時間当たりの労働生産性は47.5ドル。OECD加盟国36ヵ国中20位だった。
また、就業者1人あたりの労働生産性は84.0ドル36ヵ国中21位と、かなり低い数値を示している。
 
  • これらの結果から、世界的に見ても「勤勉」で「働き者」であるはずの日本人が、実は非効率的な働き方をしているのが明らかになった。さらに前述のストレス強度も鑑みると、日本の労働人口の内およそ半数以上が、人間関係などのストレスを感じながら、長時間非効率的な労働を強いられていることになる。
  • これからの時代に求められる組織は、集団主義と個人主義それぞれの良さを兼ね備えた「ウェルビーイングな組織」である。また、「個人の幸せ」と「皆の幸せ」両方を大切にするのを「ウェルビーイング第一主義」と呼ぶ。
 
  • ウェルビーイング第一主義への改革は、先進国の中でも日本が最も早く実現できる可能性がある。
たとえば、自動車はヨーロッパで発明され、アメリカで大量生産された。そのとき日本が行ったのは、ハイクオリティながらどこよりも安い車を作ることだった。
つまり、「要素が非常に多く困難な課題を、皆が一体になってコツコツきめ細かく解決すること」こそが日本人の強みなのである。
 
  • 社員全員が幸せな状態であるために、まずは前述した幸せの4つの因子を以下の2つに分類して考える。
 
1.個人主義的ウェルビーイング:個の幸せを目指すもの。
第1因子(自己実現と成長)・第3因子(前向きと楽観)・第4因子(独立と自分らしさ)
 
2.集団主義的ウェルビーイング:皆の幸せを目指すもの。
第2因子(つながりと感謝)
 
この個人主義的ウェルビーイングと、集団主義的ウェルビーイングという大きな2つの要素をバランスよく高めることが、幸せな組織、幸せな社員を育む重要な手掛かりになる。
  • 以下は職場やチームのウェルビーイングを高めるための基本的な考え方と方法の具体例である。
 
1.個人にフォーカスしたウェルビーイング向上方法
基本的に人が幸せであるためには、自己肯定感を高く持つことが重要である。自己肯定感があってこそ、さまざまな局面でも「やってみよう」「なんとかなる」「ありのままに」と思えるからだ。
職場やチームでは「理念の共有」が有効。目先の「自分がやるべき仕事」ではなく、根本的に「皆でやりたい仕事」を共有することは、やりがいにもつながるからである。
 
(例)会社の理念や、各人が「心からやりたいと思うこと」を再確認し、メンバー同士で共有し合う → チームメンバーの一人ひとりがやる気を持てる
 
さらに、部下やチームメンバー、同僚等に対しても相手を尊重し、信頼し合うことが必要だ。そのために有効なのが「権限の委譲」である。 

(例)些細な案件でもいいので、リーダーはメンバーに権限を委譲し任せてみる → チームメンバー一人ひとりが主体性を持つ
 
2.集団にフォーカスしたウェルビーイング向上方法
基本的に他者を許し、信頼し敬い、愛することが重要である。つながりと感謝の気持ちを持つことが大切だ。
職場ではメンバーの話を「傾聴」したり、「対話」したり、メンバーに「感謝」することが有効である。
 
(例)チームメンバー全員で「本質的なこと」を話し合う → チーム全体に信頼が生まれ、同じゴールを目指せる
 
このとき話し合うテーマは「知識交換の会話」よりも、相手の「感情が出せるような会話」が良い。
  • 実際のビジネス現場においてウェルビーイング主義的な理念やビジョンの策定、組織作りを行っているのが「伊那食品工業株式会社」である。同社は寒天の国内シェア8割を占め、48期連続増収増益という業績を成し遂げながら、「社員の幸せを目的とした経営を実践する企業」として注目されている。
 
  • 伊那食品工業の理念は「いい会社を作りましょう」である。この理念を実現するために、社内には以下のような10箇条が掲げられている。
≪「いい会社」をつくるための10箇条≫
1.常にいい製品をつくる。
2.売れるからといってつくり過ぎない、売り過ぎない。
3.できるだけ定価販売を心がけ、値引きをしない。
4.お客様の立場に立ったものづくりとサービスを心がける。
5.美しい工場・店舗・庭づくりをする。
6.上品なパッケージ、センスのいい広告を行う。
7.メセナ活動とボランティア等の社会貢献を行う。
8.仕入先を大切にする。
9.経営理念を全員が理解し、企業イメージを高める。
10.以上のことを確実に実行し、継続する。
  • また、「会社はまず社員を幸せにするためにある」という経営方針を常に一貫しており、脈々と受け継がれている。以下はその経営方針の一部である。
・信頼される商品やサービスを提供して、ファンを作る
・業績の評価はしない
・会議の際、不必要な資料は作らない
・全社員の給料を毎年2%ずつ必ず上げる(これは60年間実行されている)
・毎朝多くの社員が自主的に会社の敷地内を清掃している など
 
  • 塚越英弘社長はこのように語っている。
我々は、会社全体を一つの大きな家族『伊那食ファミリー』だと思っている。家族だからルールは最小限でいいし、会議も家族内で話し合うことだから、書類はほとんど必要ない。敷地内の掃除も、家族で協力し合って掃除をするのは当然だから、同じことを会社でもしているだけだ。
 
まさに、第2因子「つながりと感謝」を徹底的に実践した結果、社員のやりがい(第1因子)や、自分たちらしさ(第4因子)も定着しているウェルビーイング第一主義経営だと言える。

本書の後半では、他の会社の事例や職場の悩みへのQ&A、職場ですぐ実践できるレッスン等も紹介されています。
とくに健康経営に取り組まれている方にとって、多くの事例が記載されたたいへんわかりやすい書籍になりますので、ぜひ読んでみてください。
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