- 「日々のストレス解消法が欲しいけれど思いつかない・・・」
- 「ストレスに落ち込むばかりで仕事に集中できない・・・」
- 「従業員のストレスケアの方法が知りたい」
このような疑問やお悩みはありませんか?
今回はストレスへの対処法であるコーピングについて紹介します。
コーピングとは何なのか、実践の仕方や企業での活用方法について詳しく説明しますので、ストレスを解消したい方や、職場でのストレス対策を知りたい方はぜひご覧ください。
目次
コーピングとは?
コーピングとはストレスへ対処するための行動のことです。
きっかけも症状もさまざまなストレスに一つひとつに対して意図的に対処する、いわばセルフケアの行動を意味します。
たとえば、
- 好きな音楽を聴く
- おいしいものを食べる
- ショッピングを楽しむ
- 思いっきり泣く
このように、ストレスへの対処として自分が意図的にしている行動はすべてコーピングです。
コーピングはストレスを完全になくすためではなく、ストレスに気付き、適切に対処するために行います。
わたしたちは日々さまざまな人々と関わり、関係を築きながら暮らしています。日常にはストレスのきっかけが無数に存在しており、完全にゼロにはできません。
ストレスとうまく付き合うことが、コーピングの最大の目的です。
コーピングはストレスを完全になくすためではなく、ストレスに気付き、適切に対処するために行います。
わたしたちは日々さまざまな人々と関わり、関係を築きながら暮らしています。日常にはストレスのきっかけが無数に存在しており、完全にゼロにはできません。
ストレスとうまく付き合うことが、コーピングの最大の目的です。
ストレスとは?
そもそも私たちが感じているストレスとは何なのか、ストレスが発生するメカニズムについてもわかりやすく解説します。
ストレッサーとストレス反応とは?
ストレスは「ストレッサー」と「ストレス反応」の2つに分けられます。
ストレッサーとはストレスの原因となるストレス環境のこと、ストレス反応とはストレッサーに対する心と体の反応のことです。
たとえば「工事現場の騒音がうるさくてイライラした」というストレスについて考えてみましょう。
上記の場合、ストレスの原因である「工事現場の騒音」がストレッサーであり、心の反応である「イライラした」がストレス反応です。
このように、ストレスは必ず「ストレッサー」と「ストレス反応」が対になっています。
一次的認知評価と二次的認知評価について
続いて、ストレスが発生するプロセスを解説します。
ストレッサーをストレスと認知するまでには「一次的認知評価」と「二次的認知評価」の2段階の過程があります。
まず一次的認知評価では、「自分にとって有害であるか無関係であるか」を判断します。「無関係である」と判断された場合にはストレスを感じません。「有害である」と判断された場合、二次的認知評価へ進みます。
二次的認知評価では、「有害である」と判断されたストレッサーに対する対処を検討します。「対処方法を知っているか」、「対処方法は実現可能か」の2点を検討し、どちらかが不可能と判断されるとストレスが急激に高まるのです。
人によってストレスの感じ方はさまざまであり、「このストレスにはこう対処するべきだ」と一般化した答えはありません。
自分自身のストレスに気付き、適切に対処することが必要です。
とくに、日常的に感じる小さなストレスには注意が必要です。ささいなことであっても、時間をかけて積み重なったものがさまざまな病気の原因になる可能性があります。
ストレスが原因の病気は精神的なものだけではない、という点にも注意しなければなりません。たこつぼ心筋症など、重大な心臓病を引き起こす可能性もあります。
コーピングが企業からも注目されている背景
近年、従業員のメンタルヘルス対策の一環として、コーピングは企業からの注目を集めています。その理由となる3つの背景を説明します。
1.多くの従業員が仕事でストレスを抱えていると感じている
厚生労働省が発表した調査報告書によると、「仕事や職業生活に関することで強い不安、悩み、ストレスを感じている」と答えた労働者の割合は、令和2年で54.2%であり、半数を超えています。
職場で従業員がストレスを感じながら働いている状況は、決して健全とはいえません。
悪化した場合は病欠や休職に追い込まれ、結果として企業全体の生産性が低下する可能性もあります。
従業員が過度なストレスを感じることなく伸びのびと働けるよう、企業は職場環境を改善する策を講じる必要があります。
2.労災や過労死が問題視されている
近年、労災や過労死の増加が社会問題として取り上げられています。
令和3年度(2021年度)の過労死等に関する請求件数は3,099件、そのうち精神障害に関する事案は2,346件で、どちらも前年に比べ増加しています。
労災や過労死に関わる紛争・裁判は企業にとって大きな痛手です。従業員から損害賠償請求を受け、社会からの信用を失う可能性があるからです。
労災や過労死は今や特定の業種のみならず、すべての企業にとって直面する可能性がある問題でしょう。企業は早急に対策をとる必要があります。
3.取り組みを社外に発信することで、ブランディングや人材確保につながる
労働人口の減少などにより人手不足の問題を抱える企業にとって、少しでも優秀な人材を確保することは重要な課題です。
コーピングの取り組みを発信することで、社外の取引先や求職者は「この会社は従業員のためにこんな取り組みをしているんだ」とプラスの印象を持ちやすくなります。
その結果、会社のブランド力を高められたり、望む人材を確保できることが見込まれるのです。
昨今では健康経営に取り組む企業も増加してきており、さまざまな場面において企業が従業員の健康増進のための活動を行っているかどうかが、注視されています。
コーピングの種類
次に、具体的なコーピングの内容について解説します。
コーピングは2つの観点から複数の種類に分類できます。
問題焦点型と感情焦点型
問題焦点型とは、ストレッサーに直接働きかけ、ストレスの原因を抜本的に取り除く方法です。ストレスそのものがなくなるため、うまく対処できれば大きな効果を得ることができます。
感情焦点型とは、ストレス反応に働きかける方法です。悲しみ、怒り、不満など、ストレスによって生じた感情を緩和します。
たとえば「職場での長時間労働がきつい」というストレスについて考えてみましょう。
「業務量を減らすよう上司に相談する」や、「業務効率を上げるために仕事を見直す」と対処することが、問題焦点型のコーピングです。
対して、感情焦点型のコーピングは「同僚に愚痴を聞いてもらう」や、「ゆっくり湯船に浸かり疲れをとる」と対処することを指します。
問題焦点型と感情焦点型を比較すると、ストレスの原因を根本的に解決する問題焦点型のほうが優れているように感じやすいですが、そうとは限りません。
問題焦点型ばかりを重視してしまうと、ほんのささいなことでも解決せずにはいられなくなるクセがついてしまうのです。ささいなことを問題として取り上げ、解決しようとする過程で新たなストレスが生まれる、という悪循環に陥りかねません。
ストレスに対処する際は焦点を問題に当てるのか、感情に当てるのか、状況によって見極めバランスよく対処することが大切です。
認知的コーピングと行動的コーピング
認知的コーピングとは、自分の頭の中で考えイメージをすることで対処するコーピングです。
対して行動的コーピングとは、具体的な行動が伴うコーピングです。
再度、「上司に叱責され落ち込んだ」というストレスについて考えてみましょう。
「次はがんばろう」と自分を励ましたり、「自分のために叱ってくれたのかもしれない」とプラスに考えたりすることが認知的コーピングです。
対して行動的コーピングは、「カラオケでストレス発散をする」、「大声で思いっきり泣く」と対処することを指します。
認知的コーピングと行動的コーピングの場合も、どちらかが優れているというわけではないため、自分に合った方法を適切に取り入れることが大切です。
なお、コーピングの具体的な実践方法については後ほど詳しく紹介します。
コーピングレパートリーとは? 意味と作成方法
まずは質より量でコーピングレパートリーを準備する
「いざコーピングをやろう!」と実践する前に、コーピングレパートリーを準備しておく必要があります。
コーピングレパートリーとは、手持ちのすべてのコーピングを書き出しリスト化したものです。実践の前にまずはコーピングレパートリーを作成してみましょう。
コーピングの内容は本格的なものでなく、たとえば「1から10までゆっくり数える」や「新聞紙を破る」などささいなことで問題ありません。
とくに、「温泉旅行にいく」や「買い物をする」といったコーピングは、最大限の効果が得られるかもしれませんが、お金も時間もかかり対処できる機会が限られています。
上記のようなコーピングはとっておきの隠し玉として用意しておき、「鏡に向かって笑う」や「その場でストレッチをする」など、いつでも実践できるローコストなコーピングも多く用意しておくとより効果的です。
ここで重視すべき点は質より量です。コーピングレパートリーにはできるだけ多くのコーピングを書き出しましょう。コーピングレパートリーが少ないと、ひとつのコーピングに依存してしまい適切な対処が行えなくなるリスクがあります。
選択肢が10個ある場合と100個ある場合では、後者の方がさまざまなコーピングを試せるため、より効果を得られるでしょう。
コーピングが思いつかないときは、動作を細分化する
「コーピングがなかなか思いつかない・・・」という場合は、細分化して考えてみましょう。
たとえば「チョコレートが好きだからチョコレートを食べることをコーピングにしたい」という場合、そのままでは「チョコレートを食べる」というひとつのコーピングになります。
試しに「チョコレート」をお題にして細分化してみましょう。
- 「チョコレート独特のカカオの香りを楽しむ」
- 「チョコレートを舌の上でゆっくりと溶かして味わう」
- 「チョコレートを飲み込んだあとの後味を感じる」
- 「コンビニのチョコレートコーナーに立ち寄る」
- 「友人にチョコレートを配り一緒に食べる」
いかがでしょうか。チョコレートだけで5つのコーピングができました。
前項で紹介した分類パターンも参考にし、自分だけのコーピングレパートリーを作成してみましょう。
コーピングの実践手順
ここからはコーピングの実践手順をご紹介します。
ストレスを感じたらまずセルフモニタリングを行います。セルフモニタリングとは自分自身のストレスに気付くために、ストレスに関する内容を紙に書き出し観察することです。
具体的には、ストレスに感じた出来事やきっかけ、ストレスによって生じた感情や体の変化、行動を書き出します。
ポイントは、紙に手書きで書き起こすことです。パソコンやスマートフォンで書き起こされた文字に比べて生々しく、書き出された体験をよりリアルに受け止められるからです。
セルフモニタリングが終了したら、コーピングリストの中から効果がありそうなコーピングを一つ選び実践します。その後効果があったのか記録し、検証をしましょう。
オススメは、日記形式で100点満点のうち何点であったか点数をつける方法です。あるストレスには20点だったコーピングが、別のストレスには80点の効果が得られるかもしれません。
点数をつけながら実践を繰り返すことで「このストレスにこのコーピングが最適である」とベストな組み合わせを発見でき、次第にストレスへうまく対処できるようになります。
こちらの参考書籍には、記録に使えるフォーマットが数種類掲載されていますので、ぜひ参考にしてみてください。
上記の書籍に掲載されている記入例を参考にして、このように記録をします。
日付 | 体験したストレス | 使用したコーピング | 結果 | 点数 |
3月2日 | 今日も職場で叱られた。毎日叱られてばかりで惨めな気持ちになった。 | 親友に愚痴を話す。 | いつも愚痴ばかり話してしまっているので、親友に申し訳ない気持ちになった。 | 10点 |
3月3日 | 帰宅中急に雨が降り出した。傘を持っていなかったのでずぶぬれになった。 | お風呂にゆっくり浸かる。 | 体が温まって気持ちもスッキリした。 | 80点 |
また、作成したコーピングレパートリーはいつでも持ち歩けるようにし、ストレスを感じたらいつでもコーピングを実践できるようにしましょう。
単語帳にひとつずつ記入したりスマートフォンのメモ帳に保存したりする方法がオススメです。
企業で実践できるコーピングの活用方法の紹介
従業員がストレスに適切に対処しながら働いていくためには、個人の自己管理に頼るのではなく、対処しやすい環境づくりを企業が行うことも重要です。
ここでは、企業で活用できるコーピングを促進する方法を4つご紹介します。ぜひ参考にしてみてください。
メンター制度
新入社員や若手社員に対して、先輩社員が「メンター」として相談やサポートを行います。社員とメンターが定期的に面談を行い、仕事上の悩みを聞き助言します。
ポイントは、メンターを務める社員は直属の上司や先輩社員ではなく、利害関係のない社員であることです。
社員とメンターはコミュニケーションを重ねる中で次第に信頼関係が生まれ、社員にとって明確な相談窓口となります。
たとえば以下のようなストレスについて考えてみましょう。
「明日の会議でプレゼンをするよう上司に指示された。急な指示を出してくる上司に腹が立ったし、プレゼンにも自信がない」
上記のようなストレスを抱えたとき、直属の上司ではないメンターには気軽に相談しやすいはずです。
経験を積んだ先輩社員から、プレゼンの内容や上司とのコミュニケーション方法についてアドバイスをもらい、ストレスに適切に向き合えるでしょう。
ぜひ取り入れてみてください。
1on1
1on1とは、上司と部下が定期的に行う面談のことです。
上司はあくまで話を聞くことがメインで、主に部下が話をする点が特徴です。上司が部下を評価し一方的に助言をするのではありません。
たとえば以下のようなストレスについて考えてみましょう。
「同僚の勤務態度が悪く、業務がよく自分に回ってくる。本来は自分が担当ではない仕事も行わなければならず、不満が募る一方だ」
上記のようなストレスを抱えたとき、1対1で話せる1on1の場があると上司に打ち明けやすく、相談もしやすいでしょう。上司は状況を把握するためにしっかり話を聞き、解決策を提案してくれる可能性があります。
また、「上司がしっかり話を聞いてくれる、風通しのよい職場だ」と従業員に認識され、職場でのストレス軽減にも繋がります。
部下にとって安心して話しができる窓口になるよう、ぜひ活用してみてください。
研修制度の充実
ストレス対策やメンタルヘルスのセルフケアの重要性を従業員に理解してもらうために、研修制度を充実させることも重要です。
コーピングのやり方を紹介する研修や、厚生労働省が提供しているセルフケアに関するe-ラーニングを導入する方法もあります。
いくら企業が呼びかけても、従業員が自ら意識をもって取り組みを行わなければただ「やらされている」だけの無意味な取り組みとなり、新たなストレスの原因にもなりかねません。
従業員に理解をしてもらい、少しでも意欲的に取り組んでもらえるような研修を行いましょう。
外部の相談窓口の設置
中には、「会社には相談したくない・・・」と抵抗を感じる従業員もいます。
外部の相談窓口を設置しておくと、社内の人間に相談しづらい従業員でも安心して活用できます。
具体的には産業医やカウンセラーへ相談できる窓口を設置し、従業員にしっかり周知させましょう。
なお、弊社の健康経営支援ソリューションおりこうブログHRでは、オンラインでの産業医カウンセリングサービスを提供しています。ご興味のある方は、以下からサービスの詳細をご覧ください。
すぐに実践できるオススメのコーピング方法の紹介
ここからは、今すぐに実践できるオススメのコーピング方法を3つご紹介します。
ぜひ参考にしてみてください。
ポジティブなイメージを用意する
イメージをすることは、いつでもどこでも実践できる万能なコーピングです。
今回は、さらに深掘りしてイメージをするコーピング方法を紹介します。
まずはポジティブな感情になれる具体的な場面をイメージします。
ポイントは、まるで自分がその場に存在しているかのように、全身の五感を使ってイメージすることです。
たとえば「リラックス」という感情を例にイメージをしてみましょう。
「寒い冬の日、外は雪が降り積もっています。あなたは暖かいこたつに寝転びながらテレビを見ています。足の先から胸元まで、ぬくぬくとした心地よい暖かさがあなたを包み込みます。今日の夕飯は何を食べようか、ぼーっと考えていたら次第に眠たくなってきました。こたつは気持ちがいい。このまま眠ってしまいたいなぁ。そんなことを考えながらテレビに映るお笑い番組を眺めています。」
いかがでしょうか。上記のようなイメージを準備しておくと、ストレスを感じたときにいつでもイメージをした場面に飛べます。
ポジティブなイメージには、ほかにも喜び、幸せ、ウキウキ、リラックス、安心感などがあります。
自分なりのポジティブなイメージを見つけ、ぜひ実践してみてください。
自分のいいところを探す
「ついネガティブになりがちで自分に自信がない」
「嫌なことが起こると自分はダメな人間であると考えてしまう」
上記のようなストレスを抱えている方は、自分のいいところを書き出してみましょう。書き出したメモを眺めれば「自分は立派な人間なんだ」と思えてくるはずです。
また過去に人から褒められた例を思い出してみて、書き出したリストに加えてみましょう。「やさしいね」・「字がきれいだね」・「礼儀正しいね」など、小さなことでいいのでできるだけ多く挙げてみましょう。ここでもポイントは、質より量が重要であるという点です。
フレンドクエスチョン
最後にご紹介するのは「フレンドクエスチョン」というワークです。
フレンドクエスチョンとは、今自分が抱えているストレスに関して友達から相談されたと仮定して、対話を行うというコーピングです。特定の友達を思い思い浮かべ、頭の中で自分に相談させてみます。
たとえば「職場の人間関係がこじれて仕事に行くのがつらい」と相談されたら、あなたは何と返しますか?
「大変だね、社内に相談できる人はいる?頑張りすぎないようにね」
対して、相手もさらに会話をしてきます。
「会社の人には相談しづらい。誰にも言えないけど仕事は頑張らないといけないよ」
対して、あなたも返答します。
「今のままではつらいよ。上司や人事に何とか相談することはできる?」
このように相手が納得するまで何度も対話を重ねます。相手が納得できれば、自分自身も納得している状態になるでしょう。
自分の悩みとして抱えるのではなく客観的な視点で捉えアドバイスをすることで、冷静に状況を分析し判断する力が付き、自身のストレス対処に役立つでしょう。
コーピングでストレスに適切に対処しましょう
コーピングは心が折れそうなときのいわば自分助けのような存在です。職場だけではなく家庭や友人関係など、幅広い場面で活用ができます。
紹介した具体例もぜひ参考にして、コーピングを身につけてみてください。
ストレスに適切に対処しながら、健やかな日常を過ごしましょう。