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『最新パワハラ対策完全ガイド』健康経営書籍レビュー

『最新パワハラ対策完全ガイド』健康経営書籍レビュー
健康経営に関する本・書籍をご紹介。 今回は『最新パワハラ対策完全ガイド』( 著:和田隆)の読みどころやポイントを紹介します。
本書はパワハラの基礎知識からパワハラはなぜ発生するのか、パワハラを起こさないためにはどうすればいいのかなど、パワハラ全般に関して細かく丁寧に解説されています。

管理者や従業員、担当者など多数の目線からの対策を紹介していますが、各章ごとに要点がまとめられているため振り返りもしやすく、とても読みやすい一冊です。
【特に重要なポイント・内容】
  • 2020年6月に施工された「改正労働施策総合推進法」、いわゆる「パワハラ防止法」にはパワハラ防止のための国、事業主、労働者の責務が明記されている。つまりパワハラ対策とは、国や企業だけではなく、すべての従業員が取り組まなければならない問題である。

  • 管理職が取り組むべき対策は以下の3点である。

1.「関係性」をマネジメントする
われわれは対人関係において、必ず相手に期待する行動をイメージする。たとえば上司は部下に対して「報告・連絡・相談をマメに行ってほしい」などと期待するが、期待と現実に差があると「なんでもっと報告してくれないんだ」とストレスが溜まり、パワハラが発生するリスクが高まるのだ。期待していることが適切であるのかを冷静に振り返り、「部下」ではなく「部下との関係性」をマネジメントすることが重要である。

2.内的領域をマネジメントする
だれにでもパワハラの加害者になる可能性があり、「自分はパワハラなんてしない」と心掛けるのみではパワハラの発生を防げない。定期的に自分を見つめなおし、課題を見つけ解決に向けて取り組むことで「部下のせい」、「組織のせい」と外部に原因を押し付けることを防げる。

3.パワーマネジメントを実施する
部下にダメージを与えるようなパワーの使い方は断じて行ってはならない。部下が力を発揮できるようにパワーを使い、部下自身をパワーアップさせることが必要である。部下が成長すると部門の業績も向上し、上司の評価向上にもつながるだろう。
  • 著者はこれまでの事例から、「パワハラを初めから悪意をもって意図的に行っている上司などおらず、部下のため懸命に取り組んできた熱量がどこかのタイミングで一線を越え発生する」と考える。それまですべての部下を均等に見てきたが、何か一つのきっかけにより一人の部下に対して意識が集中してしまう「ロックオン」から始まるのだ。ロックオン状態には無意識のうちに陥ってしまうので注意が必要である。

  • ロックオン状態に陥ると一人の部下のことばかりが気になり、すべての行動がマイナスに見える。部下に対してイライラし、ストレスが溜まった状態が続くことでパワハラにつながるのだ。ロックオン状態を解除するためには、それまでの部下に対する評価をリセットし、長所やプラス面を見直す必要がある。

  • パワハラ対策は管理職だけではなく、従業員も取り組まなければならない問題である。「自分がパワハラ被害に遭わないように」だけではなく「組織がパワハラを起こさないように」果たすべきタスクがあるのだ。とくに重要なのは以下の2点である。

1.仕事の意味を捉える
たとえば上司から強い言葉で叱責された場合、「パワハラだ」と捉えるのか「仕事として必要なことだ」と受け入れるのか、感じ方は人によって異なる。仮に「私は○○のために仕事をしている」、「仕事を通して〇〇の能力を得たい」など目的や理想像が明確な場合、難しい仕事を与えられたり上司に叱責されたりした場合でも、「自分の成長のために必要だ」と前向きに捉えることができるだろう。一方、目標や理想がない場合、仕事に「やらされている感」が強くなり「過大な要求」だと感じやすくなる。従業員は仕事の意味を理解し目標を明確に定めることが重要である。

2.内的キャリアを育てる
内的キャリアとは興味や関心、価値観、やりがいなど個々人の内面にあるもののことである。内的キャリアは外部によって評価されるものではなく、自身の経験や満足感をもとに自分自身で評価するものである。内的キャリアを育てると、外部の力に左右されず安定した自分を築けるのだ。
  • 指導とパワハラはどこで区別をつければよいのか、重点を置くべきは下記の点である。なお多くの上司は「指導」を行っていると思い込んでいるが、定期的に自分の言動が「パワハラ」に該当しないか、冷静に振り返ることが必要である。
 
【指導】
  • 業務を遂行して成果を挙げることが目的である。
  • 部下を認め、期待し、感謝を述べるプラスのフィードバックがある。
  • 部下の誤りを正し、成長を促すマイナスのフィードバックがある。
  • 教育を行うことで、「成長したい」、「会社の役に立ちたい」という思いが生じ、自ら主体的に動くようになる。

【パワハラ】
  • 相手に罰を与え支配することが目的である。
  • 一方的な期待を押し付けるプラスのフィードバックがある。
  • 感情的に怒鳴りつけるマイナスのフィードバックがある。
  • 部下を威嚇することで、常に上司の顔色を伺う依存的な体質が身に付く。
  • 前述したパワハラ対策への取り組みは極めて重要である。一方で「パワハラ」と言われている問題の多くは、職場の中で起こっている問題を「パワハラ」という言葉を使って表現したものであり、パワハラの現実を作り上げてしまっている点も否めない。たとえば職場でのある問題に対して「上司のパワハラが原因だ」というとその途端上司は「パワハラの加害者」となり、行為を受けた部下は「パワハラの被害者」となる。上司はパワハラを否定し、部下は被害者であることを主張する。互いの主張はぶつかり、組織は起こった問題そのものではなく「パワハラなのかパワハラではないのか」を重要視してしまうのだ。
 
  • パワハラの背景には、企業が抱えるさまざまな問題が存在している。たとえば「上司と部下でコミュニケーションに齟齬があった」、「部下の能力に応じた仕事を指示できていなかった」など、問題の本質はコミュニケーションやマネジメントの面にあるのだ。顕在化した部分のみを「パワハラ」と捉えて対応するのではなく、問題の根本を明らかにし解決に向けて取り組むことが必要である。
 
  • 今後はますますパワハラに敏感な時代になるだろう。パワハラ対策は「自分には関係がない」、「関係者が対策を行えばいい」などと思うのではなく、組織に所属するすべての従業員が、当事者意識を持ち取り組むことが重要である。



ほかにもパワハラが起こった際に取るべき対応や、巻末には厚生労働省のパワハラガイドライン全文が掲載されています。
組織の経営者から管理職、一般社員まで、企業で働くすべての人が自身の知識を深められる一冊でしょう。
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