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今回は『パワハラ問題 アウトの基準から対策まで』(著:井口博)の読みどころやポイントを紹介します。
本書は弁護士である著者が、パワーハラスメントの基礎知識や基準、パワハラ防止法の詳細などについて紹介している本です。
【特に重要なポイント・内容】
- パワハラ防止法は2019年5月29日に成立し、2020年6月1日から施行された。施行前の2020年1月には、この法律で事業主に義務付けられる雇用管理上の措置について、行政上の基準となる指針が厚生労働省から提示された。
- 年々職場でのハラスメントは増加している。「令和元年度個別労働紛争解決制度の施行状況」(厚生労働省)によると、全国の都道府県労働局や労働基準監督署に寄せられた相談では、いじめ・嫌がらせの相談件数が87,570件(2019年度)と非常に高い数値を示している。
- 会社はなぜハラスメント被害に対して相談窓口を作って対応する必要があるのか。会社で受けた上司からの暴力には、その後の人間関係などを考えてしまうためすぐに声を出せない。そのために会社はハラスメントの相談窓口を作って対応しなければならないのだ。
- パワハラ以外にも、ハラスメントは多数存在する。一般的にハラスメントと言われているものを以下に示す。
1.ジェンダーハラスメント:固定的な性別役割分担意識に基づくハラスメント。男は、女はこうあるべきだと決めつけること。
2.マタニティ・ハラスメント:職場での妊娠や出産に関するハラスメント。また、男性社員が育児休業などを申請することに対するハラスメントはパタニティ・ハラスメントと呼ばれる。
3.カスタマーハラスメント:顧客や取引先からのハラスメント。顧客や取引先という優位性を背景にした言動によって、受け手に大きな精神的苦痛をあたえること。
4.モラル・ハラスメント:会社や家庭などでの主に言葉による精神的な暴力。会社ではパワハラに含まれることが多い。
5.アルコール・ハラスメント:飲酒を強要すること。会社の新入社員歓迎会などで起きることが多い。
- 厚生労働省は、2011年から「職場のいじめ・嫌がらせ問題に関する円卓会議」を開催し、2012年に報告書を提出した。その報告書ではパワハラを6つの行為類型に分類している。この6類型がパワハラの典型例として使われるようになっている。以下に6類型とその例を記す。
1.身体的な攻撃:暴行・傷害。(例)カッターナイフで切りつける、唾を吐く、物を投げつける など
2.精神的な攻撃:脅迫・名誉毀損・侮辱・ひどい暴言。(例)存在が会社に対して損害だと大声で言う、全員が閲覧するノートに個人名を出し能力が低いと罵る など
3.人間関係からの切り離し:会社で孤立させること。(例)職場での会話の無視、飲み会などに誘わない など
4.過大な要求:過大な要求を強制されること。(例)多大な業務の強制、絶対にできない仕事の強制 など
5.過小な要求:能力を無視し、仕事を与えないこと。(例)故意に簡単な仕事をずっと振る、1日中掃除しかさせない など
6.個の侵害:プライバシーの侵害。(例)出身校や家庭の事情をしつこく聞く、業務上のミスを個人の事情のせいにする など
- 以下は著者が取り扱ったパワハラの事例と解説である。
(1)暴力行為
【事例】
上司Aは部下であるBに、自分に対しての態度が悪いと言い、Bの胸ぐらをつかんで顔面を数回殴打した。
【解説】
これはパワハラである以前に暴行罪という犯罪である。また、もしBが怪我をしていたら傷害罪にあたる。傷害罪は怪我だけでなく、精神疾患を発症させることも含まれる。
(2)威圧的言動
【事例】
上司Aは部下が作った書類が気に入らないと、いつもその書類を机に何度も叩きつけたり、ゴミ箱を蹴ったりする。
【解説】
このケースは直接的な暴力や、部下をめがけてのものではないため、暴行罪とは言えない。しかし、犯罪でないとしても、部下の心身に大きな苦痛を与えるため、パワハラとなる。
(3)人格否定発言
【事例】
上司Aは、営業成績の良くない部下Bに対し、「いるだけでみんなが迷惑している」「お前は会社を食い物にしている。給料泥棒」などと発言した。
【解説】このように相手の人格を否定する発言はパワハラである。こうした言動は1回だけでなく何度も繰り返されるのが特徴だ。継続的に行われると部下は精神的に疲弊し、自分が生きている価値がないと思い込み、場合によっては自殺にまで追い込まれることもある。
(4)仕事に無関係な言動
【事例】
課長Aは部下Bに対し常々私用を頼む。先日はAの娘が行きたいコンサートのチケットの順番どりをさせられ、今日はAの家族のためにケーキを買いに行かされた。
【解説】
業務に何も関係のない公私混同的言動もパワハラである。たとえ部下から「わかりました」と返事があっても、真の承諾と言えない場合はハラスメントになる。
(5)長時間にわたる叱責
【事例】
上司Aは仕事でミスをした部下Bに、就業時間の過ぎた午後5時から3時間もBを叱責し続けた。Bへの長時間の叱責はこれで3度目だった。
【解説】
叱責が長時間になったり、回数が多かったりすると、受けの心身への影響が大きくなるためパワハラになる。
(6)他の社員がいる場所での叱責
【事例】
上司Aは部下Bのミスに対して、わざと大声で「こういう間違いをするのがいるんだよ、うちには。恥ずかしくないのかね、こんなミスして」と言った。Aの声は同じフロアの他の社員全員に聞こえていた。
【解説】
これは見せしめ的な叱責としてパワハラになる。自覚を促すためといっても、他の社員に聞こえるように言うのは受け手に強い精神的苦痛を与えるのでアウトだ。このような場合、叱責を聞いていた他の社員に対しても精神的苦痛を与え、職場環境を悪化させたとしてパワハラになることがある。
パワハラ防止法のポイントを簡単にまとめると、以下の5点になる。
1.パワハラの定義を定め、事業主に対し、雇用管理上必要な措置を講じることを義務付けた。
2.事業主に対し、労働者がパワハラ相談やパワハラ調査で証言したことなどを理由として、解雇などの不利益な取り扱いをすることを禁止した。
3.厚生労働大臣は事業主に対して、パワハラの雇用管理上の措置等について報告を求めることができ、必要なときは助言・指導・勧告ができるとした。
4.厚生労働大臣は事業主が勧告に従わなかったときは、その旨を公表できるとした。
5.厚生労働大臣に報告をしなかったり、虚偽の報告をしたりした者は、20万円以下の過料(※)に処するとした。※行政上の秩序罰のこと。
本書の後半では、経営者や管理職の義務や、具体的な事例を使った問題集などが掲載されています。
パワーハラスメントについて、企業での対策を強化したいと考えている方にオススメの本です。