健康経営に関する本・書籍をご紹介。
今回は『いやな気分よさようなら コンパクト版』(著:デビット・D・バーンズ)の読みどころやポイントを紹介します。
本書は精神科医である著者が、うつ病治療の理論や認知行動療法について解説した本です。
実際のカウンセリングや認知行動療法の方法なども詳しく紹介されています。
【特に重要なポイント・内容】
- うつ病は医学的病気と考えられているが、調査研究の結果では「遺伝的影響」によるものはわずか16%にすぎない。この結果から多くの個人にとって、生活の影響が最も重要な原因であることがわかる。
- アメリカでは、「薬物療法が最も効果的な治療である」という考えが広く一般化され信じられている。しかし、ここ20年間で実施された研究結果と薬物療法の結果が一致していない。これらの研究から、最新の心理療法形態、とくに認知行動療法が薬と同等かそれ以上に効果を発揮していると示された。
- 認知療法の簡単で有効な感情調整技術は、以下のようなものを患者にもたらす。
- 速やかな症状の改善:軽いうつ病の場合、1~2週間ほどの短期間で症状が良くなる。
- 症状の理解:なぜ憂鬱なのか、どうしたら気分が良くなるか等の理由を与えてくれる。そして「正常」と「異常」な気分の区別ができる。また、症状に対する混乱がどの程度重症なのか、診断が可能である。
- 自己コントロール:混乱したときの安全で有効な対処法が学べる。
- 予防:うつ傾向にある患者の性格を見直すことで、感情の動揺を予防する。
- 認知療法の第一の原理は、自分の感情はすべて自分の「認知」または考えにより作られることである。認知は自分が物事をどう見るか、どう受け止めるか、受け止めた物事に対してどのような態度をとるか、そしてどのように信じるかを規定する。
- 認知療法の第二の原理は、「憂鬱な時には悪い方向ばかりで物事を考える」ことである。自分自身のことだけでなく、世の中全体を暗く考えてしまう。そして自分の思っているように事態は「実際に」ひどく悪いのだ、と確信してしまう。もしかなり重症のうつ状態だと、過去をみれば悪いことしか思い出せず、未来にも暗いことしか見えてこない。このような考え方は絶望感を生む。これは明らかに不合理な考え方だが、患者はこれが事実で、しかも永久に続くと確信している。
- 認知療法の第三の原理は、感情の混乱を引き起こすマイナスの考えは、ほとんど常に認知のゆがみを含んでいることである。認知療法を学ぶにつれ、このような考え方は不合理で間違っており、憂鬱の主な原因であることがわかる。
- ペンシルバニア大学医学部のジョン・ラッシュらが、最も一般的な抗うつ薬のイミプラミンと認知療法の効果を比較する研究を行った。研究では重症うつ病患者44名を「抗うつ薬のみで治療するグループ」と「認知療法のみで治療するグループ」の2つに分け、12週間後の状態を比較した。研究の結果、認知療法のみで治療したグループの患者19名のうち完全に治った患者が15名、一方で抗うつ薬のみで治療したグループの患者25名のうち完全に治った患者が5名という結果になった。
- これまでの精神医学では、うつ病は感情の病気と考えられてきたが、著者らの研究結果は「うつ病は感情の病気ではない」というものだった。気分の悪さはすべて歪んだマイナスの考え方からきており、不合理な悲観的態度が症状を発展させ、固定しているのである。
- 認知の歪みの定義は以下の10個に分類される。
- 全か無か思考:物事を白か黒のどちらかで考える思考法。少しでもミスがあると、完全な失敗と考えてしまう。
- 一般化のしすぎ:たった1つでも良くない出来事があると、世の中すべてがよくないと考える。
- 心のフィルター:たった1つの良くないことに対しこだわり、くよくよ考え、現実を見る目が暗くなってしまう。
- マイナス化思考:なぜか良い出来事を無視してしまい、日々の生活をすべてマイナスで考える。
- 結論の飛躍:根拠もないのに悲観的な結論を出してしまう。
- 拡大解釈(破滅化)と過小評価:自分の失敗を過大に考え、長所を過小評価する。逆に他人の成功を過大評価し、他人の欠点を見逃す。
- 感情的決めつけ:自分の憂鬱な感情は現実をリアルに反映していると考えること。
- すべき思考:何かやろうとするときに「~すべき」「~すべきでない」と考える。
- レッテル貼り:「一般化のしすぎ」を極端にしたもの。ミスをした際に、どうミスをしたかを考える代わりに自分にレッテルを貼ってしまう。
- 個人化:何か良くないことが起こったとき、自分に責任がないような場合にも自分のせいにしてしまう。
- 認知の歪みを分かりやすくするため以下に例をあげる。
「ステーキの肉が焼きすぎだ」と夫に不機嫌に言われて、すっかり意気消沈してしまった主婦。「自分は完全に失敗者だ。もう耐えらない。物事がちゃんと出来た試しがない。まるで奴隷のように働いて、その結果がこの言葉なんて!」こういう考えのため、憂鬱で、腹立たしくなってくる。
この場合の認知の歪みは、「全か無か思考」(完全に失敗者だ)、「一般化のしすぎ」(物事がちゃんと出来た試しがない)、「拡大解釈」(耐えられない)「レッテル貼り」(まるで奴隷のように)となる。
- アメリカの医学者で精神科医のアーロン・ベック博士の報告によると、うつ病患者の80%以上が自己嫌悪を訴える。さらに博士は、うつ病患者は彼らが非常に評価しているもの(知性、業績、人気、魅力、健康、たくましさ等)を、自分は持っていないのだと思い込みやすいと述べている。
- アーロン博士はうつ病患者の自己イメージを、Defeated(打ち負かされた)、Defective(欠陥がある)、Deserted(見捨てられた)、Deprived(剥奪された)と4つのDで特徴づけている。
- たとえば、著者が担当したエリックという大学生の患者は、授業中に恐怖を感じている。「教授に指された時、僕はきっとヘマをするにちがいない。」つまりヘマをしたらどうしようという恐れが彼の心の中いっぱいを占めているのである。以下は著者とエリックの会話の一部を抜粋したものである。
デビッド:仮に君が、授業中にヘマをしたとして、君が特別にペシャンコになる必要があるかい?どうしてそんなに惨めになるんだい?
エリック:自分がバカに見えるんです。
デビッド:君が自分のことをバカだと思ったとして、なぜそんなにペシャンコになるのかな?
エリック:皆が僕を軽蔑するだろうから。
デビッド:それがどうだというんだい?
エリック:とても惨めです。
デビッド:どうして皆が君を軽蔑すると、惨めになるんだい?
エリック:自分には価値がないように思えるから。今まで積み上げてきたものさえ、ダメになるような気がします。自分はレベルの低い人間で、弁護士なんか絶対になれっこないと思うんです。
デビッド:君が弁護士になれなかったとしよう。もっとわかりやすくするために、仮に落第したとしよう。何で君のすべてがダメになるのかね?
エリック:人生で望んでいたものは、1つも手に入らないような気がするんです。
デビッド:それがなんだっていうんだね?
エリック:人生が虚しく見えます。自分が負け犬みたいで、何の価値もないように思えるんです。
この短いやりとりの中で、エリックが人から非難されたり、ミスを犯したり失敗したりするのを極度に恐れていることがわかる。1人に軽蔑されることが皆に軽蔑されることだと信じ込んでいるのだ。このような認知の歪みを少しずつ改善していくのが認知行動療法である。
本書の後半では、上記のような具体的な例をはじめ、認知行動療法を実際に行っていく様子も記されています。また認知行動療法を行うためのワークシート等も記載されているので、少しでもいやな気分を解消したいと思っている方にオススメの本です。