健康経営に関する本・書籍をご紹介。 今回は『ケアする人も楽になる 認知行動療法入門』(著:伊藤絵美)の読みどころやポイントを紹介します。
本書は、普段ケアを職業とする方々(とくにナースの方々)を対象にセルフケアの方法を紹介した本です。
もちろん一般の方々が読んでも、大変参考になります。
認知行動療法について、具体的な治療の様子を交えながら、わかりやすく説明されています。
【特に重要なポイント・内容】
- 認知行動療法とは、ストレスの問題を「認知」と「行動」の側面から自己改善するための考え方と方法の総称である。
- 普段日常的に使用している「ストレス」という言葉の定義は非常に難しい。
- ストレスを「ストレス状況(ストレッサー)」と「ストレス反応」の2つに分けて考える。
「ストレス状況(ストレッサー)」とは、個人にストレスを与えてくるさまざまな環境的要因(例:状況、出来事、他者とのかかわり など)のことである。
一方「ストレス反応」とは、ストレス状況が個人に与えるさまざまな影響や、個人の中に引き起こされたさまざまな反応(例:ストレスが溜まっている感じ、しんどい などの感覚)のことである。
このようにストレスを2つに分けてみることで、個人を取り巻くストレスの有り様を具体的にとらえられる。
- たとえば、Aさんのストレスを考えてみる。Aさんを取り巻くストレス状況には、「上司が口うるさい」「報告業務が溜まっている」など仕事のことが多く挙げられている。それに対するストレス反応は、「上司を見るだけでうんざりする」「業務を先延ばしにする」などがある。
このように「ストレス状況」と「ストレス反応」に分けてとらえると、ストレスの有り様が理解しやすくなる。
- 認知行動療法はストレスの問題を自己改善するための心理学的手法だが、なかでも「自己改善」がポイントになる。その第一歩として、今の自分自身のストレスの有り様に自分で気づき、理解することが大切である。自分のストレス状況とストレス反応を自問自答し、書き出すことで自分のストレスの有り様を客観的にとらえられる。
- 認知行動療法の基本モデルでは、ストレス反応を「認知」「気分・感情」「身体反応」「行動」の4つの領域に分けて理解しようとする。
1.認知:頭の中に浮かぶ考えやイメージのこと。
決してネガティブなもの(例:どうして自分ばかり、もうすべてがどうでもいい など)だけではなく、ポジティブなもの(例:今日食べたランチがおいしかった、きれいな夕日だな など)も、ニュートラルなもの(例:明日は掃除をする予定だ 夕食の買い物に行こう など)もすべて含まれる。
また、言葉による考えだけでなく、映像などによるイメージ(記憶など)も含まれる。
2.気分・感情:心で感じるその時々の感覚や気持ちのこと。(例:うれしい、楽しい、緊張、不安、疲れた など)
3.身体反応:身体に現れるあらゆる生理的な反応のこと。(例:動悸、頭痛、くしゃみ、涙が出る など)
4.行動:外側から見てわかる人の振る舞いのこと。(例:歩く、座る、目を閉じる、質問する など)
- 認知行動療法の基本モデル活用で最も重要なのは、体験を相互作用的・循環的にとらえることである。ストレス状況とストレス反応は相互作用しており、「ストレス状況→ストレス反応」の流れもあれば、逆の「ストレス反応→ストレス状況」の流れもある。また、先に説明したストレス反応の4つの領域も同様に相互作用している。
- たとえば、Bさんはプライベートでの彼との関係についてストレスを感じている。彼からのメールの返事が遅かったり、携帯に電話をかけてみたら電源が入っていなかったりといったストレス状況が発生中だ。
そのようなストレス状況に対して、Bさんのなかには「このままうまくいかなくなるのではないか」「他に好きな人ができたのでは」という不安や心配が生じたり、落ち着かず何度も連絡をしてしまったり、不安や心配のせいで眠れなくなったりといったストレス反応が生じている。
このBさんがしてしまっている「落ち着かず何度も彼に連絡をしてしまう」という行動だが、もしかしたら彼に対して「忙しいのに何度も連絡をしてきて面倒だ」と思われているかもしれない。つまりBさんにとってあまりよくない方向で状況に影響を与えた、「ストレス反応がストレス状況に影響を与えた」状態になるのだ。
- 階層的モデルは、先述した「認知」を浅いレベルと深いレベルというように階層的に区別するものである。
- 浅いレベルの認知は自動思考と呼ばれる。自動思考は朝から晩まで私たちの頭の中に浮かんでは消えることを絶えず繰り返している。また、自動思考は私たちがいちいち意識することなく浮かんでは消えていくという特徴をもつが、少し意識すれば容易につかまえられる。
- 深いレベルの認知はスキーマ(信念、思い込み、ものの見方、価値観)と呼ばれる。スキーマは個人にとってあまりにも当たり前な信念やものの見方なので、スキーマ自体が意識の表面に自動思考として浮かんでくることはめったにない。しかし、一個人がもつスキーマが万人にとって当たり前というわけではなく、人それぞれ個々のスキーマが存在する。
- 認知行動療法のモデルを使って、自分の体験を理解したり整理したりする過程のことをアセスメントという。基本モデルを用いたアセスメントは認知行動療法で最初に行う作業であり、最も重要な作業である。
- アセスメントでは自分のストレス体験を紙などのツールに書き出していく。この方法を外在化という。ツールを外在化することで、自分の体験を客観的に眺め、自分自身を理解するための助けになる。
- 自分を取り巻くストレス状況を改善したり、ストレス状況によって生じたさまざまなストレス反応を緩和したりするために、なんらかの対処を意図的にすることをコーピングと呼ぶ。コーピングはアセスメントと並ぶ、認知行動療法における最重要概念である。
- コーピングについて1つだけ強調しておく必要がある。それは、自分で直接的にコーピングすることが可能なのは、認知と行動に限られることである。自分を取り巻く環境や状況、対人関係を直接的に変えることはできないのである。また、気分・感情と身体反応も、直接コントロールすることはできない。つまり、コーピングはすべて認知的コーピングか行動的コーピングのどちらか、もしくはその両方が合わさったものである。
- コーピングできるのは、認知と行動だけだが、その2つを変えることで他の要素も相互作用により変化する。
- 認知行動療法を行うときの注意点は大きく3つ。
1.精神疾患を罹患し治療中の場合、必ず主治医に相談し許可を取ってから始める。
認知行動療法はとても役に立つ心理学的トレーニングだが、症状や状態によっては逆に負荷がかかり、症状や状態がむしろ悪化することもある。
2.認知行動療法に即効性はないため、根気強く取り組む必要がある。
認知行動療法は他の心理療法と比較すれば、進みが速く効果が出やすいと言われている。だからといって、即効性を求めてはいけない。あくまでも「他の心理療法より効果が出るのが速い」だけである。
3.ストレス体験を対象にするため、時には痛みを伴う場合もある。
認知行動療法に限らずあらゆる心理療法は、最終的に個人の困りごとや問題の解消、その結果心が楽になったり生きやすくなったりすることを目指す。しかし、それはあくまで最終目標であり、そこに到達するまでに数々の痛みを伴う場合がある。(例:アセスメントの際、辛かった出来事を思い出す など)
本書の後半では、実際に治療をおこなった方についてどのように治療していったのか、認知行動療法の全体像を見ることができます。
とくに認知行動療法について知りたい方、メンタル不調を抱えている方にオススメの書籍です。ぜひ手に取ってみてください。