健康経営に関する本・書籍をご紹介。 今回は『ケーススタディ 面接シナリオによるメンタルヘルス対応の実務』(著:高尾総司、森悠太、前園健司)の読みどころやポイントを紹介します。
メンタルヘルス不調者との面接の進め方に特化しているのが、この本の最大の特徴です。
産業医・社会保険労務士・弁護士の3名による共著のため、医療面だけでなく法律面からの見地も豊富に記載されています。
【特に重要なポイント・内容】
- メンタルヘルス不調を抱えて遅刻・欠勤が続く従業員には、遅刻・欠勤をせずに通常勤務をしてもらうか、療養に専念(病気欠勤・休職)してもらうかの2択しかない。
- メンタルヘルス不調になって休職している従業員を診療している主治医が「元の職場でパワハラ・セクハラがあったのではないか」と会社に意見してきた場合は、まずは従業員本人に「ハラスメントがあったと正式に相談するか」を質問したほうがよい。周囲からの言及で会社からの配慮を引き出そうとする従業員は少なくないからである。「正式にハラスメントを相談する」との回答があった場合は、ハラスメント相談窓口とも協力して加害者とされる者や同僚へのヒアリングを進める。「相談しない」場合は、通常どおりの対応を実施する。
- ハラスメントと職場復帰の問題は切り分けて対応すべき。ハラスメントの有無が確定していなければ、職場復帰の面接でハラスメントがあったことを前提に復帰手順を進めることはできない。
- 安全配慮義務における使用者(会社側)の過失判断は、予見可能性と結果回避義務履行の有無の2段階に整理できる。つまり、使用者に結果を予見する可能性があったと判断された場合には、その結果を回避する適正な措置をとる義務があったとされ、使用者がその義務を果たさなければ過失があったと判断される。
- 結果回避義務履行のために会社が考える精一杯の「業務軽減」をおこなったとしても、結果的に症状の悪化や自殺などが生じた場合には、裁判所などからは「もっと大幅な業務軽減が必要だったにもかかわらず、それを怠った」と判断されてしまう可能性がある。したがって、結果回避義務を確実に履行するには、従業員にメンタルヘルス不調で就業に支障があった時点ですみやかに労務提供義務を免除する(療養に専念させるなど)ことが最善である。
- 職場復帰面接で一番重要なのが職場復帰基準の確認である。職場復帰基準は1.業務基準、2.労務基準、3.健康基準の3つ。
- 1. 業務基準…元の職場で以前と同じ仕事ができるまでに回復しているかを判断する。
・原則として、元の職場、職位、職務への復帰とする。
・復帰後の業務効率・質・量が、職位相当8割以上で、2ヶ月以内に職位相当に回復すること。
・業務内容を職位相当未満とする質的軽減勤務はおこなわない。
- 2.労務基準…服務規程どおり働けるまでに回復しているかどうかで判断する。
・業務基準を満たした職務内容で、服務規程に定められたとおりに定時勤務でき、就業態度にも問題がないこと。
- 3.健康基準…仕事を続けても健康な状態を保っていられるかで判断する。
・健康上の問題による業務への支障、および業務による健康上の問題が発生するリスクがないこと。
- 業務基準と労務基準は上司・人事など会社側の人間が判断し、健康基準については産業医・主治医が判断するといったように、各基準を判定する者を役割分担したほうがよい。
- 職場復帰時にはストップ要件を定めておき、従業員本人を含めた関係者間で約束しておく。ストップ要件とは、復帰後にメンタル不調の悪化が懸念される状態になったときに、すみやかに再療養に入るための条件のこと。
【ストップ要件の例】
復帰後の任意の1ヶ月間に原疾患に起因することが否定できない遅刻・早退・欠勤、および当日連絡による休暇の申し出や、あるいは上司の通常の労務管理での指揮命令が困難であると判断されることが、合計で3回以上あった場合は、すみやかに再療養を命じる。
以上のような内容のほか、面接シナリオのファイルを出版社のホームページからダウンロードできるようになっており、復帰準備完了確認シート、主治医意見書、療養段階確認シートなどの書式も用意されているなど、職場復帰の業務で今すぐ使える実践的な内容になっています。
メンタルヘルス不調による休職者が発生したときに備えて、会社に1冊用意しておくと安心できる本です。
ただし、他のメンタルヘルス関係の本では効果的と紹介されていることが多い、軽減勤務や試し出勤の有効性に対しては否定的など、独自の主張も見られる本ですので、この一冊だけで会社のメンタルヘルス対策を決定するのではなく、他の本も読んだうえで総合的に判断するのがよいでしょう。