健康経営に関する本・書籍をご紹介。 今回は『基礎からはじめる 職場のメンタルヘルス 改訂版 事例で学ぶ考え方と実践ポイント』( 著:川上憲人)の読みどころやポイントを紹介します。
職場のメンタルヘルスの基礎的な知識から、メンタルヘルス不調者が発生した際の具体的な対応方法、職場環境改善の体制づくりなどの実践的な内容をわかりやすく紹介している本です。
【特に重要なポイント・内容】
- 従業員のメンタルヘルスは会社の生産性に直結している。うつ病になった人の生産性の低下を金額にして計算すると、平均3ヶ月分の給与に相当する。
- 仕事でのストレスの大きさは複数の要素が重なることで決定される。仕事の量・速度・質などの「仕事の要求度」が高く、なおかつ「仕事のコントロール度(その人が仕事を進めるやり方やスピードを決められる裁量の範囲)」が低い状態だと、ストレスは特に大きくなる。この場合、うつ病になる可能性が1.4倍にまで増加する。なお、心臓病になる確率も2倍まで増加する(これは喫煙習慣がある場合とほぼ同じ程度の関係性)。さらに職場の上司や同僚からのサポートが少なく3重苦になった場合は心臓病の危険性が2倍~7倍程度にまで跳ね上がる。
- また、仕事に費やしている努力が大きいのに対し、報酬が低い状態もストレスが極めて大きくなる。ここでの報酬には給与はもちろんのこと、地位や将来の安定性、同僚や顧客からの感謝の気持ちなども含まれる。仕事上の努力に対して、報酬が不足している状態だと、うつ病の可能性が2倍にまで増加する。
- 仕事のストレスが大きいと腰痛や首の痛みが起きやすい。ストレスがある状態だと仕事上の事故が約2倍発生しやすくなり、上司・同僚からのサポートが少ないと通常の約2倍~3倍仕事上の事故が起きてしまう。
- 仕事が原因で部下の体調が悪化していることに気付いていながら、負担の軽減や医師による受診の勧奨などの対策を怠った場合、会社側の安全配慮義務違反となる。メンタルヘルス不調の部下に対して、精神科などの受診を勧めることは会社に課せられた安全配慮義務を果たすことになる。
- メンタルヘルス不調からの回復率は意外と良好。後遺症が残りやすい統合失調症でも6割が職場復帰し、うつ病や不安障害では7~8割が職場復帰している。ただし、復帰後4年以内に4割が再休業しているので、一度復帰したら安心というわけではない。
- うつ病での休業は一般的に1~3ヶ月程度だが、病状によってはもっと長くかかることもある。一直線で右肩上がりには回復せず本人にもいつ治るかはわからないので、「いつ良くなるのか?」などを問う発言は避ける。
- メンタル不調で休業後、職場復帰した人に励ましや期待の言葉をかけるのは実は逆効果。それよりも、「まずは最初の1ヶ月はできることを一緒に少しずつやっていこう」などの、ハードルを低くする言葉をかけたほうがよい。
- 職場環境の意外な箇所が従業員のメンタルヘルス不調を引き起こしていることもある。たとえば、ある職場では肩こりや視力低下の訴えが従業員から多発したが、その原因は実は職場の窓にあった。廊下に面した壁面が大きな透明窓になっているため、廊下を通る人から作業を監視されているような気分となり、従業員のメンタルヘルスが悪化していたのだ。廊下から部屋の中を見えなくすることで、従業員の不調は大幅に減少した。
- 職場環境の改善策を立案する際には、上司などの管理監督者だけで計画を立てるよりも、従業員たちも参加して計画を立てたほうが、圧倒的に効果が大きくなる。
- 職場のストレス調査で「上司の支援度が低い」との結果が出たとしても、属人的な要素だけが理由とは限らない。たとえば上司が多忙で席にいないことが多かったり、レイアウトの問題で上司の席までの通路が狭く相談に行きづらかったりすることが理由のケースも存在する。
- 上司への確認事項や相談すべき内容が多い割に、上司が多忙で時間を取れない職場は従業員のメンタルヘルスが悪化する傾向にある。そういった場合は、権限と技術を持つサブリーダーを職場に設置すると、状況が改善する。従業員の裁量権がメンタルヘルスに大きな影響を与える好例。
- ストレス研修では、自分のストレスをマネジメントする認知行動療法などを紹介すると効果的。
- ストレスチェックの結果を労働者に通知するだけでは、メンタルヘルスは改善しない。その一方、ストレスチェックの集団分析と職場改善、高ストレスと判定された人へのセルフケアの情報提供と相談には、科学的に改善効果が確認されている。
後半はメンタルヘルスケアやストレスチェック実施の体制・計画づくりがメインになってきますので、健康経営優良法人の取得を目指していて早急に体制・計画を形成する必要がある方にも役立つ内容が多いでしょう。
職場のメンタルヘルスケアを学ぶ最初の1冊として、オススメできる本です。