パワハラ防止法の施行など、企業でのメンタルヘルス対策が強く求められる中、有効な施策としてラインケアが注目されています。 今回はラインケアの意味や必要性・目的、具体的な方法などを、メンタルヘルスの初心者向けに、解説します。 「職場のメンタルヘルス対策に取り組みたい」「ラインケアのやり方を知りたい」という方はぜひご覧ください。
目次
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- ラインケアとは?
- 職場のメンタルヘルス対策の必要性
- 社員がメンタルヘルスの問題で長期間休職したときの企業側の金銭的損失は、数百万円にも達する
- 新入社員が3ヶ月で早期退職した場合の企業の金銭的損失は1人あたり187.5万円にも!
- さらに、お金には換えられない「仲間」を失う深刻なデメリット
- 職場でのメンタルヘルスケア対策を怠ったまま放置していると、法令違反を問われる可能性も
- ラインケアの必要性・目的・メリット
- 厚生労働省も企業のメンタルヘルスケア対策としてラインケアを推奨
- ラインケアの方法・手順
- 気になった部下・社員には声がけする
- 部下・社員とのラインケア相談でNGな言葉
- 社員のメンタルヘルス不調を解消するには、産業医との面談の機会を設けよう
- 部下・社員が産業医との面談を嫌がる場合は、管理監督者(上司)が代わりに相談しよう
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ラインケアとは?
ラインケアとはメンタルヘルスケアの一種で、部長や課長などの職場における指揮命令系統のライン上にいる管理監督者(上司)が、部下・社員の心の健康をケアして職場環境を改善する取り組みのことです。
職場のメンタルヘルス対策の必要性
近年になって、労働者が職場で激しいストレスを受けてメンタルの健康を崩すケースが急増しています。
2020年(令和2年)に厚生労働省が発表した調査によれば、過去1年間にメンタルヘルス不調により連続1ヶ月以上休業した労働者または退職した労働者がいた事業所の割合は9.2%にものぼったとのことです。
つまり10カ所の事業所があれば、そのうち1カ所の割合で、明確に社員のメンタルヘルスで問題を抱えている会社が存在する計算になります。
休職者などのかたちではっきりと問題が顕在化していなくても、潜在的に社員のメンタルヘルスが危機を迎えている会社はこの数倍は存在することが考えられます。 すなわち日本企業の多くが、職場のメンタルヘルスで課題を抱えているのが現状なのです。
社員がメンタルヘルスの問題で長期間休職したときの企業側の金銭的損失は、数百万円にも達する
もしメンタルヘルスの不調で社員が長期間休職した場合、企業側には多大な金銭的損害が発生します。
内閣府の調査によると、年収約600万円の男性社員1人が6ヶ月休職した場合に企業が支払うコストは周囲の社員の残業代増加なども含めると、合計で422万円にものぼるとされています。
たとえ年収が600万円より低い社員であっても、長期間の休職が発生すると数百万円単位の損害が発生するのは確実でしょう。
新入社員が3ヶ月で早期退職した場合の企業の金銭的損失は1人あたり187.5万円にも!
また休職だけでなく、新入社員のメンタルヘルスケアなどに失敗して早期退職を招いてしまった場合の、企業への金銭的損失も深刻です。
求人情報メディア・人材紹介サービスを運営するエン・ジャパンによれば、新入社員1名が入社後3ヶ月で離職した場合の企業側の損失は187.5万円にものぼるとされています。
以上のように、社員のメンタルヘルス不調による休職・退職が発生すると多額の金銭的損失が発生します。
同額の損失を利益上昇で補填するには、さらにこの数倍の額の売り上げを上積みしなければならないでしょう。
とりわけ中小企業などでは、社員の休職・退職による金銭的損失を明瞭に把握していない会社も多いと思いますが、そのダメージは予想以上に大きいのです。
さらに、お金には換えられない「仲間」を失う深刻なデメリット
先ほどはメンタルヘルス不調による休職者・退職者が発生した際の金銭的損失にスポットを当てて説明してきましたが、もちろん金銭的な面ばかりが深刻なのではありません。
むしろ金銭的損失よりもはるかに重要なのは、これまでいっしょに職場で仕事に取り組んできた仲間を一時的もしくは永遠に失ってしまうことです。
その社員が蓄積してきた知識・経験・技術は活用できなくなってしまいますし、周囲の同僚・後輩にもネガティブな心理的影響が発生します。
休職者・退職者が出た場合はただでさえ、その職場に残っている社員の業務量は増加しがちなので、他の社員にも連鎖的にメンタルヘルス不調が広がることにもなりかねません。
職場でのメンタルヘルスケア対策を怠ったまま放置していると、法令違反を問われる可能性も
また、社員のメンタルヘルス不調が頻発するような状況を放置しておくと、企業側には深刻な法的リスクも発生します。
労働契約法 第5条では、「使用者(事業主)には従業員を業務に従事させるにあたって、過度の疲労や心理的負担をかけて、社員の心身健康を損なうことがないように注意する義務がある」と定められています(安全配慮義務)。
企業や管理監督者(上司)の対応が不適切だった場合、安全配慮義務を怠っていたと判断され、労災請求や民事訴訟を起こされる可能性があります。
また、2022年4月1日以降から中小企業も適用対象となったパワハラ防止法(改正労働施策総合推進法)では、職場でのパワーハラスメント防止措置が企業側に義務付けられました。
【パワハラ防止法で企業に課せられる義務】
- パワハラ防止の社内方針の明確化と、すべての労働者に対して周知・啓発すること
- 労働者からの相談・苦情に応じ、適切に対応するために必要な体制を整備すること
- 相談があった場合、事実関係を迅速かつ正確に確認し、被害者及び行為者に対して適正に対処するとともに、再発防止に向けた措置を講ずること
- 相談者や行為者等のプライバシーを保護し、相談したことや事実関係の確認に協力したこと等を理由として不利益な取扱いを行ってはならない旨を定め、労働者に周知・啓発すること
- 業務体制の整備など、職場における妊娠・出産等に関するハラスメントの原因や背景となる要因を解消するために必要な措置を講ずること
以上の防止措置を企業側が怠り、行政からの勧告に従わなかった場合、会社名が公表される可能性があります。
会社名が公表されてしまうと著しくイメージが悪化してしまい、社員やパート・アルバイトの採用活動にも多大な支障が発生するでしょう。
GoogleやYahoo!で会社名を検索した際のサジェストキーワードにも、「●●株式会社 パワハラ」などネガティブな言葉が長期間表示される可能性もありますので、一層ダメージは深刻になります。
なお、パワハラ防止法やパワハラ対策に関しては、下記ページにて詳しく解説しているのでこちらもご覧ください。
ラインケアの必要性・目的・メリット
社員へのメンタルヘルスケアの手法として重視されているのがラインケアです。
管理監督者(上司)は産業医などと比較して部下・社員との接点がもっとも多く、職場でいっしょに過ごす時間も長くなるため、メンタルの不調に気づく機会も必然的に多くなります。
さらに管理監督者(上司)は単に相談だけでなく、業務量や勤務シフトの調整、有給休暇取得や産業医との面談の勧奨など、実効性のある対策も実施しやすい立場にあります。
社員のメンタルヘルスを維持するうえで、なくてはならない有効な施策がラインケアなのです。
管理監督者(上司)は産業医などと比較して部下・社員との接点がもっとも多く、職場でいっしょに過ごす時間も長くなるため、メンタルの不調に気づく機会も必然的に多くなります。
さらに管理監督者(上司)は単に相談だけでなく、業務量や勤務シフトの調整、有給休暇取得や産業医との面談の勧奨など、実効性のある対策も実施しやすい立場にあります。
社員のメンタルヘルスを維持するうえで、なくてはならない有効な施策がラインケアなのです。
厚生労働省も企業のメンタルヘルスケア対策としてラインケアを推奨
実際に、厚生労働省もラインケアを企業のメンタルヘルスケア対策の中核としてラインケアを位置づけています。
【厚生労働省が推奨するメンタルヘルスケア指針のなかの「4つのケア」】
- セルフケア…従業員本人が自分のストレスに気づき、対処を実行することを指します。ストレスチェックなどもセルフケアに該当します。
- ラインによるケア(ラインケア)…管理監督者(上司)による従業員への相談対応や、職場環境改善のことです。
- 事業場内産業保健スタッフによるケア…産業医や保健師、衛生管理者、人事労務管理スタッフなどが実施するメンタルヘルスケアのことです。
- 事業場外資源によるケア…産業保健総合支援センター(さんぽセンター)など、会社以外の専門的な機関や専門家を活用し、 その支援を受けることです。
以上のように、厚生労働省はラインケアを重要な「4つのケア」のうちのひとつとしており、各企業や事業者に対してラインケアの実施を推奨しています。
ラインケアの方法・手順
部下や社員にメンタルヘルス不調の兆候がないかチェックする
まずはメンタルヘルスに不調や問題を抱えていそうな部下・社員がいないかをチェックすることが重要です。
部下・社員の異状に気付けなければ、有効なメンタルヘルス対策を打ちようがないからです。
部下・社員がメンタルヘルスに不調を抱えているときには、普段とは違ういくつかの兆候・シグナルが発せられます。
厚生労働省が以下のようにメンタルヘルス不調の兆候・シグナルをまとめておりますので、みなさんの職場に当てはまる部下・社員がいないか、ぜひチェックしてみてください。
【「いつもと違う」部下の様子】
- 遅刻、早退、欠勤が増える
- 休みの連絡がない(無断欠勤がある)
- 残業、休日出勤が不釣合いに増える
- 仕事の能率が悪くなる。思考力・判断力が低下する
- 業務の結果がなかなかでてこない
- 報告や相談、職場での会話がなくなる(あるいはその逆)
- 表情に活気がなく、動作にも元気がない(あるいはその逆)
- 不自然な言動が目立つ
- ミスや事故が目立つ
- 服装が乱れたり、衣服が不潔であったりする
メンタルヘルス不調の兆候に気付く能力には個人差があり、物理的に離れた事業所や店舗では察知するのが困難
管理監督者(上司)は部下・社員が先述したようなメンタルヘルス不調の兆候を発していないか、常に気を付けておくべきですが、それらを迅速・正確に察知できるかどうかには個人差が大きいのも事実です。
もちろん管理職向けのメンタルヘルスに関する外部研修などに参加させることで、各人の能力を向上させることはできるでしょうが、それでも部下・社員のメンタル状態を察知するのに長けた上司とそうでない上司が混在するのはやむをえないでしょう。
また、物理的に離れた箇所にある事業所や工場、店舗などでは、どんなに優れた能力を持った上司であっても、部下・社員の様子や職場の雰囲気をリアルに感じ取るのは至難の業です。
とりわけ異なる市や県に存在する事業所の場合は、何度も職場の様子をうかがいに行くのも大変なので、メンタルヘルスチェックがしづらい状況になります。
そのためパワハラなどが職場で横行していても、離れた事業所のため気付くのが遅れてしまい、「事態が致命的なまでに悪化してからようやく気付いた」という例が多発しがちです。
各社員・スタッフのメンタルの推移を客観的・統計的に把握できるツールを導入するのも有効
前述したように、部下・社員のメンタルヘルスの様子をチェックして異状に気付く能力には上司ごとに個人差がありますし、離れた事業所では日々チェックすること自体が困難です。
その有効な解決策となるのが、メンタルヘルスケアツールの導入です。
たとえば弊社ディーエスブランドのおりこうブログHRのようなメンタルヘルスケアツールを導入し、各社員がメンタルヘルスの状態を日々入力するようにしておけば、異状があれば自動的なアラートを知らせてくれるので、上司の個人差によらずメンタルの不調をチェックできます。
また、離れた箇所にある事業所・営業所・工場・店舗の各社員のメンタルヘルスの状態も簡単に把握可能です。
「明らかにこの店舗だけ、社員みんなのメンタルヘルスの状態が悪いな…。パワハラや何らかの問題が発生しているのかも…」などトラブルを早期発見し、手遅れになるまえに対処できる可能性も向上します。
「職場のメンタルヘルス対策を充実させたい」「パワハラ防止法も施行されたので気を付けたい」という企業様は、ぜひおりこうブログHRのようなメンタルヘルスケアツールの導入を検討してみてください。
気になった部下・社員には声がけする
部下・社員の様子をチェックしてみて、ふだんと様子がちがっており気になる人がいたら、積極的に声がけをするようにしましょう。
「きちんと睡眠時間は取れてる?」「趣味やスポーツとかの好きなことは楽しめてる?」といった、ささいな声がけでかまいません。
もしそこで「最近、あまりぐっすり眠れていないんですよね…」「かなり疲れてて、休日はほとんど寝るだけです…」などの答えが部下・社員から返ってきたら、メンタルヘルス不調を抱えている可能性がありますので、より本格的な相談の機会を後日に設けることをお勧めします。
日頃から、部下・社員が相談しやすいような環境づくりを心がける
どんなに管理監督者(上司)が入念に部下・社員の様子を日々チェックしていたとしても、ひとつの職場で数十人以上が働いている場合は、その全員に常に目を行き届かせることは至難の業です。
そのため、メンタルヘルスに不調を抱えている部下・社員のほうから、自発的に相談してくれるようにしておくのが理想的です。
日頃から気軽に相談しやすいような雰囲気作りをするように心がけましょう。
相談時には周囲に声が漏れない、静かで落ち着いた環境で実施しよう
メンタルヘルス不調の気配がある部下・社員と、きちんとした相談の機会を設ける際には、どこで実施するかも重要になります。
周囲に会話の内容が漏れそう、あるいは周りの声が耳に入ってきて耳障りな環境下では、部下・社員は落ち着いて自分の悩みを話しづらくなってしまいます。
会議室など静かで落ち着いた場所を手配するようにしてください。
また、相談中はパソコンを閉じて携帯電話なども目に入らない場所に置くようにしましょう。
相手の目を見ずにパソコンの画面を見ながら片手間に話を聴く、携帯電話の着信で何度も会話が寸断される、という状況ではむしろ部下・社員の不信感を募らせてしまいます。
リラックスして会話に集中できる環境を整えてください。
部下・社員との相談時は相手の言うことを否定しない、積極的傾聴法を利用する
部下・社員と相談するときは自分ばかりがしゃべるのではなく、相手の話をつぶさに聴くように心がけましょう。
その際に利用できるのが、積極的傾聴法(アクティブリスニング)という手法です。
積極的傾聴法は共感的理解・無条件の肯定的関心・自己一致の3つを原則として、相手の話を聴く手法です。
それぞれ詳しく解説します。
1.共感的理解
部下・社員の立場を想像し、相手と同じ視点で話しを聴くようにしてください。 「自分がこの人と同じシチュエーションだったら、どう思うだろうか?」と常に意識しながら、まずは静かに部下・社員の話を聴きましょう。
相手の言葉を単に耳で聴くのではなく、心で受け止めるように傾聴するのが大切です。
2.無条件の肯定的関心
部下・社員の話に対しては、好き嫌いや善悪、正しい・正しくないの判断を入れずに、肯定的な関心を持って傾聴してください。
相手がなぜそのような考えに至ったかの背景を考えながら、話をありのまま受容します。
3.自己一致
管理監督者(上司)は、相手に対しても自分に対しても正直に向き合うようにしてください。
部下・社員の話のなかで「よくわからなかったな…」という箇所があれば、わかったふりをして流すのではなく、「すみませんが、一度聴いただけだとよくわからなかったので、もっと詳しく話してもらってもいいですか?」「それは●●という理解で問題ないですか?」など、確認しましょう。
部下・社員とのラインケア相談でNGな言葉
メンタルヘルス不調の可能性がある部下・社員と相談する際は、自分や会社の意見を押しつけないようにしましょう。
とくに以下のような言葉は使わないように十分に注意してください。
【ラインケア相談でNGな言葉の例】
- 同僚や周囲との比較:「●●さんは、きちんとやってるよ」「みんな、同じ条件でがんばっているんだから」
- 失敗やミスの強調:「みんなに迷惑かけたぶん、もっとがんばりなよ」「またミスをされたら、職場のみんなが困るからな」
- 上辺だけのポジティブ思考の強制:「もっと前向きになりなよ」「細かいことを気にしすぎだよ」「がんばれ、絶対にできる」
社員のメンタルヘルス不調を解消するには、産業医との面談の機会を設けよう
先述した積極的傾聴法を利用して、管理監督者(上司)が部下・社員と相談することで、部下・社員のメンタルヘルス不調が快方に向かう、あるいは悪化を防げるパターンも多いでしょう。
ですが、管理監督者(上司)はメンタルヘルスや精神医学の専門家ではないので、部下・社員に対して常に適切なケアをおこなうことは難しいのが現状です。
また、部下・社員のメンタルヘルス不調の裏にうつ状態や適応障害(ストレス性障害)などの病気の兆候があるか否かを、医学的見地から診断することも、管理監督者(上司)には不可能です。
そのため、管理監督者(上司)が「部下・社員に対して正しいケアをできる自信がない…」と悩んでいる場合や、部下・社員がうつ病や適応障害などを抱えている可能性があると感じた場合は、産業医などのプロに任せるのが安心です。
もし「現在、会社で契約している産業医の先生は心療内科や精神科が専門ではないから、メンタルについての相談を任せるのは少し不安…」という場合は、メディカルコンチェルトのようにオンラインで産業医をマッチングできるサービスもありますので、ぜひ活用してみましょう。
心療内科・精神科が専門の産業医とスポット面談を実施することも可能ですし、地理的に離れた場所からでも経験豊かな産業医へオンライン面談を依頼できます。
部下・社員が産業医との面談を嫌がる場合は、管理監督者(上司)が代わりに相談しよう
なお、メンタルヘルスに不調を抱えている部下・社員のなかには、産業医やその他専門家との面談に拒否感を示す人もいます。
その場合は、その部下・社員の許可を得たうえで、管理監督者(上司)が代わりに産業医と面談するという選択肢もあります。
管理監督者(上司)が産業医と面談する際は、その部下・社員の最近の様子や、不調を抱える前と後のギャップなどを伝えてください。
産業医にアドバイスをもらい、連携しながらラインケアを進めていきましょう。