- 「最近よく聞くアルハラって具体的にどういうハラスメントなの?」
- 「自分の行為がアルハラに該当しているかもしれない…」
- 「職場でアルハラ対策をしたいけれどやり方がわからない…」
このような疑問やお悩みをお持ちの方のために、今回はアルコールハラスメント(アルハラ)について紹介します。
アルコールハラスメント(アルハラ)の定義や実際の事例、企業へ及ぼす影響をわかりやすく解説しています。
自身の言動の振り返りや企業での対策に役立てたい方は、ぜひご覧ください。
アルコールハラスメント(アルハラ)とは
アルコールハラスメント(アルハラ)とは、飲み会など飲酒を伴う場面で行われる、飲酒に関連した嫌がらせや迷惑行為のことを指します。
厚生労働省によると、アルハラは以下の5項目として定義されています。
1.飲酒の強要
上下関係や部の伝統、集団によるはやしたてを行ったり、罰ゲームと称したりして心理的な圧力をかけ、飲まざるをえない状況に追い込むことです。
2.イッキ飲ませ
場を盛り上げるために、イッキ飲みや早飲み競争などをさせることです。
「イッキ飲み」とは一息で飲み干すことで、早飲みもイッキ飲みと同じです。
3.意図的な酔いつぶし
酔いつぶすことを意図して飲み会を行うことです。ひどいケースでは吐くための袋やバケツ、「つぶれ部屋」を用意していることもあります。
4.飲めない人への配慮を欠くこと
本人の体質や意向を無視して飲酒をすすめるたり、飲めないことをからかったり侮辱したりすることです。
5.酔ったうえでの迷惑行為
酔って絡むことや悪ふざけ、暴言・暴力、セクハラ、その他のひんしゅく行為のことです。
※出典:アルハラ (厚生労働省)
アルハラ行為を受けた被害者は急性アルコール中毒を引き起こす可能性があり、最悪の場合命を落とすこともある恐ろしいハラスメントです。
※出典:急性アルコール中毒(厚生労働省)
アルハラを発生させないためには、一人ひとりが危険意識を高め自覚と責任をもち、ルールを守ってお酒を楽しむことが重要です。
アルハラが発生する背景と原因
アルハラが発生する背景には、以下の2点が考えられます。
アルハラ加害者であるという自覚がない
アルハラ加害者は「お酒を飲むことで互いに腹を割って話せる」、「コミュニケーション向上のために飲み会での交流は必須だ」といった考え方を持っていることが多く、嫌がっている相手に強要しているという自覚があまりありません。
また酔いが回り、判断力が低下した状態だと、自分の行動を客観視できにくいという点も考えられます。
アルハラの加害者は自身の行動に問題があるという自覚がないまま、被害者を傷つけてしまっているのです。
年功序列や風習を重んじる文化が残っている
日本には古来、年功序列制度が定着しており「年長者は敬わなければならない」、「部下は上司の指示に従うものだ」といった上下関係を尊重する思想が多く存在しています。
近年は、働き方改革やグローバル化により就業形態も多様化していますが、上記のような考え方がいまだに残っている組織も多くあります。
そのような組織では、「上司から命令されたのだから飲まなければならない」という心理に働きやすく、飲酒の強要につながるのです。
また、「新入社員はイッキ飲みで歓迎するのが昔からの伝統だ」、「自分も経験したことなので部下にも経験させる」といった、従来のやり方に従わなければならないという風潮が、アルハラの原因にもなっています。
しかし、どのような理由であってもハラスメント行為は行ってはなりません。
アルハラに該当する具体例
次に、アルハラの具体例を紹介します。
前述した通り、アルハラは自分が意図していない場面で発生している可能性があります。
下記はアルハラの一部ですので、あくまで参考として自身の行動の振り返りや、組織のアルハラ対策に役立ててください。
<行動>
- 用意したアルコールをすべて飲み干すよう強制する
- ソフトドリンクを希望した部下に、「少しだけだから」とアルコールを飲ませる
- 泥酔することを目的とし、嘔吐した際のバケツやごみ袋を事前に用意しておく
- 泥酔状態で女性の体にボディータッチをする
- 伝統と称して、新入社員に一気飲みをさせる
- 複数名でイッキコールを呼びかけ、本人の意思に関わらず飲まざるを得ない空気をつくる
<言動>
- 「酒が飲めない男は格好悪い」
- 「上司が飲めと言っているのに飲めないのか」
- 「酒に弱いなら飲んで練習しなさい」
- 「自分も若い頃一気飲みの経験をしたんだから」
アルハラが企業に与える影響
アルハラは、行為を受けた被害者だけではなく企業全体にも影響を及ぼします。
どのような影響を与えるのか、以下で解説します。
法的責任を問われる可能性がある
アルハラは強要罪などの犯罪行為につながる可能性があり、加害者だけではなく企業も責任を負わなければなりません。
具体的に以下の犯罪に該当する可能性があります。
- 不法行為責任:飲酒の強要によって精神的な苦痛を与えたとされる場合
- 使用者責任:雇用している労働者が第三者に損害を与えた場合、企業は加害者と連帯して損害賠償の責任を負わなければならない
- 強要罪:相手に対して殴る蹴るなどの暴行とともに飲酒を強要した場合
(例)
- 「なんで飲めないんだばか野郎」などと脅迫し、一気飲みを強要する
- 飲酒を断った部下を殴り無理やり飲ませる
- 傷害罪:一気飲みをさせ相手が急性アルコール中毒に陥った場合
- 保護責任遺棄致死罪:酔って倒れた人に対して、救急車を呼ぶなど適切な対応をせず死亡した場合
- 傷害現場助勢罪:一気飲みや飲酒の強要を直接行っていなくても、イッキコールなどで場を盛り上げ、飲酒をあおる行為をした場合
従業員のモチベーション低下につながる
一度アルハラ被害をうけた従業員は「またお酒を飲まされるのではないか」、「もう飲み会に行きたくないけれど断れない」といった心理的ダメージを負い、仕事のモチベーション低下につながります。
またアルハラを見たり聞いたりしたほかの従業員が「自分もアルハラ被害を受けたらどうしよう」と考え、なんらかの精神的ダメージを負う可能性もあります。
上記のような問題が常態化した職場環境では、心理的安全性が低下し企業の売り上げに直結するでしょう。
心理的安全性について、詳しくは以下のページをご覧ください。
離職率の増加につながる
アルハラを受けた被害者は精神的に大きなダメージを受け、場合によってはメンタルヘルスの不調により休職や退職に追い込まれることがあります。
離職率が増加し、企業にとって大きな痛手です。
またアルハラの事実が社外に流出すると、求職者からも「ハラスメントが横行している会社だ」と認識されてしまします。
その場合、望む人材を得ることが難しくなるでしょう。
アルハラによる実際の裁判例
実際にアルハラにより発生した裁判例を下記に記載します。
1.上司による飲酒の強要がパワハラと認められた例
【概要】
上司によるパワハラ行為が原因で精神疾患を患い休職し、その後自然退職扱いとされた従業員Aが、加害者Xのパワハラ行為による精神的苦痛を受けたものだとして、自然退職後の賃金を求めて提訴した。判決では飲酒の強要を含むパワハラ行為が認められた。
【アルハラの内容】
- 「酒は飲めない」と断ったAに対して、加害者Xが「少しなら大丈夫だろう」、「俺の酒は飲めないのか」と執拗に飲酒を強要した。
- おう吐したAに対して「酒は吐けば飲めるんだ」とし、その後も強要を続けた。
2.適切な救護措置を怠ったとして大学生らに賠償が命じられた例
【概要】
大学2年生のAがサークル内の飲み会において急性アルコール中毒により死亡したのは、適切な指導を怠った大学と救護措置を怠った学生に責任があるとして、Aの両親が賠償を求めた。判決では学生らに対して合わせて約6,700万円の賠償が命じられた。
【アルハラの内容】
- 加害者らがイッキコールではやしたて、Aがグラスに入ったウォッカを一気飲みした後、意識がない状態であったが適切な救護を行わなかった。
- 加害者らはAの状態から急性アルコール中毒を疑い、自身のスマートフォンで急性アルコール中毒の症状を検索した。しかし別の加害者が「寝ているだけだから大丈夫」などと述べ救急車を呼ぶなど救護措置をとらなかった。
※出典:裁判例検索(最高裁判所)
アルハラ防止のために企業がとるべき対策
上記で、アルハラは企業全体にも影響を及ぼすと解説しました。
ではアルハラを引き起こさないために、企業はどのような対策をとればよいのでしょうか。
ポイントは以下の4点です。
1.社内でのアルコールに関するルールづくりを行う
まずは、社内で飲み会での明確な規則を設けましょう。
以下のようなルールがあるとよいでしょう。
- 一気飲みやコールは厳禁
- アルコールが苦手な人のために必ずソフトドリンクを頼む
- 幹事や責任者を明確にしておく
- 出欠をとり参加を強いない
「一気飲みは社内で禁止されていますよ」といった周囲からの声かけにもつながり、アルハラ対策に有効です。
2.アルハラの危険性を周知する
東京消防庁によると、令和元年東京都で急性アルコール中毒により搬送された人数は18,212人で、とくに忘年会などの機会が多くある12月が最多です。
過去には多くの痛ましい事件が発生しています。
アルハラは最悪の場合被害者の命を奪ってしまう重大なハラスメントであるということを、従業員に周知させましょう。
なお、以下のサイトには、アルハラにより急性アルコール中毒に陥った事例が多く掲載されています。
実際の事例を紹介しアルコールとの付き合い方を考えるためには、周知に活用してみるとよいでしょう。
3.従来の固定概念をなくし正しい知識を普及する
上記で、アルハラの加害者は従来の固定概念や風潮にこだわりをもっていると解説しました。
こういった概念を改めるために、企業は従業員に教育の機会を設けましょう。
たとえば、「お酒が弱いものはやる気がなく、根性なしだ」と個人の体質をステータスと誤認し、飲酒を強要するケースがあります。
しかしアルコールへの耐性は一人ひとりの体質により異なっており、遺伝的な要素があります。人によってはほんの一口のお酒で重症化することもあるのです。
また、一般的に血中アルコール濃度0.02~0.1%までなら、急性アルコール中毒になる危険性は低いとされています。
以下がその酒量の目安です。
お酒の種類 | お酒の量 | アルコール度数 | 純アルコール量(約) |
ビール | 500ml | 5% | 20g |
日本酒 | 180ml | 15% | 21,6g |
ウイスキー | 60ml | 43% | 20,6g |
ワイン | 180ml | 14% | 20,2g |
チューハイ | 520ml | 5% | 20,8g |
焼酎 | 110ml | 25% | 22g |
このように、アルコールに関する正しい知識を従業員に普及し、従来の「部下は上司の命令に従わなければならない」、「新入社員はイッキ飲みで歓迎しなければならない」といった風潮を正しましょう。
また、全社員にアルコールパッチテストを実施し、自らの体質について把握しておくことも有効です。
なお、以下のサイトには研修や普及活動に役立つ内容が掲載していますので、参考にしてみてください。
4.相談窓口を設置する
事業主は従業員からの相談に対して柔軟に対応するために、必要な体制を整備しなければなりません。
アルハラに対する相談窓口の設置や、担当者を立てるなどの対策を行いましょう。
また、前述したように酔った状態での暴力行為や迷惑行為もアルハラに該当します。
これらはパワハラやセクハラなどほかのハラスメントにつながる恐れがあり、極めて重大な行為です。
企業側で相談窓口を設置する際はアルハラのみではなく、ほかのさまざまなハラスメントにも対応できるよう一元管理するとよいでしょう。
その他のハラスメントについて詳しく知りたい方は、以下のページをご覧ください。
また、パワハラに関しては下記ページにて詳しく解説しているので、ぜひご覧ください。
正しい知識を身につけ対策に取り組もう
アルハラは誰でも加害者になりえる重大なハラスメントです。
企業全体で危険意識を持ち対策を講じることで、アルハラの発生を未然に防げます。
飲み会やイベントでは飲酒を楽しむ一方で、周囲への配慮と思いやりをもった言動を心がけましょう。
また、ハラスメント対策は健康経営を実現するうえでも役立ちます。健康経営について詳しく知りたい方は、以下参考ページをご覧ください。
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